「クラムボンはかぷかぷわらったよ」
そんな不思議なフレーズにひきこまれる宮沢賢治の名作「やまなし」のふたつのお話が、武田美穂さんの絵と構成で、低学年向けにもわかりやすい絵本版になりました。
5月のお話は、2匹の小さなサワガニの子どもが谷川の底でおしゃべりしている場面から。青くて暗い水の天井を、つぶつぶあわが流れていきます。おひさまの光がふってきて、その中で魚がつうっと通り過ぎたり、また戻ってきたり。その時、天井からとがった何かが飛びこんできて……。
12月は夜のお話。大きくなったカニの子どもたちは、月の光がさしこむ美しい天井を見ながらあわをはいています。すると今度は「とぷん!」黒い丸い大きなものが落ちてきて……。
水の底から見上げる幻想的な風景と、子どもたちの耳にも心地よく響くオノマトペ。さらに、突然飛び込んでくる外の世界との接触の瞬間。果てしないようにも感じるこのドラマ、実は思っているよりもずっと小さな世界で起きている出来事なのです。そんな具体的な想像もしながら、子どもたちにも宮沢賢治の語りのおもしろさをまるごと味わってもらいたい! 武田さんの思いが伝わってくる「えほん宮沢賢治ワールド」シリーズの中の可愛らしい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
5月のお話ーー二匹のかにの子どもが、谷川のそこで、話しています。上のほうを、あわが流れていきます。おひさまの光がふってきます。ごみのかげが立ちます。魚がやってきました。そのとき、とがった何かが飛びこんできて、魚をつれさっていきました。こわがっている子どもたちの上を、花びらが流れていきます。12月のお話とともに、水底の世界を描いた2つのお話です。名作童話の絵本版。
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