夏休み前のある日、そうたが学校から帰ると、おじいちゃんが来ていました。おじいちゃんの家の前には大きな海があり、毎年夏休みになると親戚みんなで集まって海で泳ぐのですが、そうたはけっして海には入りません。どうしても泳ぐのがこわいのです。そんなそうたに、おじいちゃんが、海で拾ったというももいろの貝がらをくれます。それはこれまで見たこともないほど大きな貝がらでした。
その数日後の真夜中、貝の中から小さな音が聞こえてきます。 「ざざーん ざざーん シクシク シクシク あいたいよ〜」 貝が話すことには、はなればなれになってしまった小さなやどかりぼうやが自分に会いたくて泣いているというのです。そこでそうたは、貝を海へ戻してあげると約束するのですが……。
この後、泳げないそうたがはたして貝を海に戻せるのか、気になる展開にページをめくる手がどんどん進みます。作者のおくやまゆかさんご自身による挿絵にも魅力がいっぱいあり、話し始めた貝がらにあらわれる、まゆげや目や鼻や口びるはぜひ見ていただきたいところで、つやつやしている様子には色っぽさまで感じられます。さらに、貝に会いたいと泣く小さなやどかりもとっても愛らしいので注目くださいね。また、表紙や中の挿絵にたっぷり使われている水色と、ほんのり色づくももいろの貝がらという二色の色合いが、夏に手にとりたくなる爽やかさいっぱいです。
そんな楽しい挿絵が全ての見開きに入って読みやすい本書は、ひとり読みをはじめたい時期の小学1年生から、少し読み物にも慣れてきた3年生ぐらいに特におすすめ。読み聞かせで親子で楽しむのもいいですね。我が家でも、スイミングスクールに通い始めたばかりの息子と読んで、最初に出てくるおじいちゃんとママのセリフについ吹き出して一緒に笑ってしまいました。
泳ぐのが苦手だったり、海に入るのがこわいという気持ちは、プールや海に入る機会の増える夏には、共感する子どもたちも多いのではないでしょうか。頼りにされることで勇気を出し行動するそうたくんの姿をうらやましく感じながら、きっと背中を押してもらえる。そんな一冊になることでしょう。
作者のおくやまゆかさんには、同じ福音館創作童話シリーズの既刊に『三まいのはがき』『もじゃもじゃドライブ!』があります。こちらは「へんてこ話3部作」とも言われているよう。どのお話もちょっと予想がつかない展開の面白さが詰まっていて、びっくりさせてくれますよ。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
そうたは、泳ぐのが怖くて、まだ海に入れません。ある日、おじいちゃんが、海で見つけた貝がらをくれました。とても大きな、もも色のまき貝です。ところが真夜中、貝の中から音がします。「ざざーん、しくしく、あいたいよー」おどろいていると、貝はとつぜん話しだし、これは、故郷の海のやどかりぼうやが、自分にあいたくて泣いている声なのだと、涙ながらに告げるのでした。そうたは、貝を海にかえそうと勇気をふるいます。
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