私はかつて児童精神科クリニックに勤務し、幼児期の自閉スペクトラム症の早期支援と家族の支援が大切だと考えられていた院長先生のもと、セラピストとして、子どもを対象とした個別の発達支援と親御さんのカウンセリングに携わっていました。子どもを連れて来るのはほとんどがお母さんで、たくさんの涙を見て、苦しい気持ちや悲しい気持ちもたくさん聴いてきました。 私は診断が家族に与える影響を目の当たりにし、支援にかかわる自分の力不足、専門性の低さを感じることがたくさんありました。あの頃は学ぶしかなく、日々の省察に「学びたい」という意欲をかきたてられ、ありとあらゆる研修に足を運び、自閉症について勉強し、子どもの理解を深める努力をしながら、彼らとの具体的なかかわりを重ねました。クリニックでは個別の発達支援にもとづき、子どもに合った遊びや課題、プログラムを考え、お母さんやお父さんから家庭での様子を伺うことで子どもについての理解を深め、子育ての方法を一緒に考えていきました。 私はお母さんやお父さんからの質問や疑問にすぐに答えることのできない未熟な支援者でしたが、支援の過程で子どもの成長を親御さんと一緒に共有できる時間は、とても素敵なひとときでした。いくつものお母さんの笑顔に出会い、その傍らで自分らしく遊ぶ幼い子どもをお母さんと一緒に見守る中で、私は思いました。もしかしたら、私たちのような家族以外の存在が、お母さんやお父さんの思いや願いに寄り添い、子育てを応援する人として何らかの役割が果たせるのでは……。自分のような力不足でも、子どもの成長を支える一人として存在することが大切なのではないかと思いました。 2024年の現在、私は大学に勤務し、専門機関や地域で障害のある子どもの支援にかかわる様々な仕事や活動に取り組んでいます。また、自閉スペクトラム症児を含む子どもにかかわる支援者の専門性の確立や、家族支援の方法について研究も積み重ねてきました。この25年間も、自閉スペクトラム症の子どもと家族とのかかわりを続け、たくさんの出会いがありました。経験を積み重ねていても力不足を感じることばかりですが、私が取り組んできたことを整理し、お母さんをはじめとした家族へのメッセージや子育てのヒントになることをお伝えできるのではないかと考えました。 本書では、私のこれまでの活動をもとに、お母さんをはじめとした家族に向けたメッセージを綴っています。また、自閉スペクトラム症の子どもと家族の支援にかかわる人(支援者、ボランティア等)にも読んでいただくことで、家族を支援することの大切さを共有し、支援者の役割を再考する機会にできたら大変うれしく思います。 この本を通じて、自閉スペクトラム症の子どもの子育てをがんばっている家族の理解が深まり、支援の輪が広がりますように。この本が子育てをがんばっているお母さん・家族にとってのお助け本になりますように。
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