森の暗がりの中、一本のクヌギの木にスポットライトが当たっています。カメラに映し出されているのは、樹液に群がる、信じられないほどの数のカブトムシ!目がくぎづけになる表紙を開くと、緑が色濃い真夏の雑木林が広がっています。 写真は「ぐんま昆虫の森」で撮影されています。里山の自然が管理され、毎年たくさんのカブトムシが誕生している場所です。この絵本は、森での写真を通して、カブトムシの一生の物語が綴られます。
「カチャカチャ バキバキ ブロロローン」 夏休みが始まった7月の終わり頃、クヌギの木の上から、不思議な音がします。 成虫が出そろったこの時期、樹液の場所をとりあって、オス同士の激しい戦いが繰り広げられているのです。樹液の場所はオスとメスの出会いの場。オスは戦いに勝つことで、よい場所を独り占めしてメスと出会い、自分の子孫を残します。にぎやかなこの時期の雑木林。しかし、一瞬にしてカブトムシの夏は過ぎていきます。メスの産卵後、卵から孵った幼虫は冬を越え、梅雨の頃サナギになり、夏に羽化する時まで地中で過ごします。 この1年の命のドラマを余すことなく写し取っているのは、昆虫写真家として活躍する作者・筒井学さん。カブトムシの魅力を今の子どもたちに伝え、雑木林という舞台でカブトムシが存在する背景、人間とのつながりも知ってほしいという想いでこの本を制作されています。 昔と比べて自然が少なくなった現在でも、たくさんの子どもたちがカブトムシに魅入られて、捕りにいったり育てたりしています。彼らにとってカブトムシは、身近なスターといったところでしょうか。手の中で動いているのは「強くてかっこいい昆虫」、同時に、「小さな、はかない命」でもあります。 最後のページにある筒井さんの言葉をご紹介します。 「子どもたちは、虫網をもって、夢中で昆虫を追いかけ、手に触れて命を実感する。 自然とはなにか、命とは・・・ きっとこどもたちは感じ取ってくれるはずです。」
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
今年もカブトムシの一年がはじまりました!
カチャカチャ バキバキ ブロロローン!
今年もカブトムシの1年がはじまりました!
夏の雑木林をにぎわす人気もの、カブトムシ。 しかし、カブトムシにとっての夏は、一瞬にして過ぎ去ってしまうのです…。
交尾を終えたメスには、たいせつな仕事が待っています。 メスは、ひとつぶずつ、ていねいに卵を産みつづけていきます。
そして、いよいよふ化の瞬間。 とても大きなカブトムシの、小さな、小さな、幼虫時代のはじまりです。
めぐってゆく季節の中で、命は世代を越えて続いていきます。
ぐんま昆虫の森で、1年を通じて撮影した写真で、 人間がつくりだした雑木林とカブトムシとの関わり、 身近な自然や生物との触れ合いを考える写真絵本です。
【写真・文】 筒井 学 (つつい まなぶ) 1965年北海道生まれ。 1990年より東京豊島園昆虫館に勤務。 1995年から1997年まで昆虫館施設長を務める。 その後、群馬県立ぐんま昆虫の森の建設に携わり、 現在、同園に勤務している。 昆虫の生態・飼育・展示に造詣が深く、 昆虫写真家としても活躍している。 著作は、 『虫の飼い方・観察のしかた(全6巻)』(共著、偕成社)、 『クワガタムシ観察辞典』(偕成社)、 『小学館の図鑑NEO 昆虫』 『小学館の図鑑NEO 飼育と観察』(共著)など多数。
子どもたちに大人気のカブトムシ、立派なツノやツヤツヤした身体を見て、我が子たちも見つけられると、とても嬉しそうです。
ツノが立派なオスを題材にした絵本が多い中、筒井学さんの絵本の中ではメスが卵を産むところがとても丁寧に描かれているのが、素敵だなと思いました。
多い時には100個近い卵を産むメス、そのひとつひとつの卵の周りに、生まれてくる幼虫のために程よい空間を作るそうです。
メスは卵を産んで死んでしまうので、幼虫に会うことはできません。
それでも我が子のためにひとつひとつ丁寧に空間を作ってあげているのか…とカブトムシのお母さんの愛を感じてしまいました。
我が子のために…そんな思いは、昆虫も人間も変わらないのだなと、筒井学さんのかぶとむしがいきる森を読んで思いました。
この絵本の舞台になっているぐんま昆虫の森のような豊かな自然を、カブトムシや昆虫が沢山生きていける環境を我が子のためにも残していきたい、子どもたちが虫取りに行くたびに色んな昆虫に出会える環境を残していきたい、そんな思いにさせてくれる絵本でした。 (komiさん 30代・ママ 女の子8歳、男の子5歳)
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