飯野和好さんといえば、代表作である『ねぎぼうずのあさたろう』のような独特な画法で人気の高い絵本作家ですが、その出発点はセツ・モードセミナーと聞いて驚きました。
しかも、デビューが1969年の雑誌「anan」なのですから、さらに驚きです。
今の絵風から「anan」とはどうも結びつかない。
けれど、飯野さんの絵に対するこだわりが今に続く飯野さんの世界観になったのだと思います。
この絵本はタイトルにあるように、山の峠の茶屋の娘おせんと「山渡り」の娘おこまの物語です。
表紙絵でいえば、左がおせん、右がおこま。
おせんは明るく元気な女の子ですが、まだここのつ。
だから、茶屋の仕事を手伝っていますが、世間のことはたくさんは知りません。
ある朝茶屋にやってきた一人の少女がかごやざると味噌や塩と交換するのもどうしてだろうと思います。
少女の名はおこま。おせんのおじいちゃんはおこまが「山渡り」の子供だと教えてくれますが、おせんには「山渡り」がわかりません。
「山渡り」というのは。山から山へと移りながら、猟や竹細工をしたりで生計を立てている人たちで、飯野さんは彼らの「野生動物のようなたくましさと、かれらの生きる力」に驚いたと、この絵本のあとがきのようなコメントに記しています。
飯野さんはおこまに単にたくましさだけでなく自然と共存する、生きるものたちへのやさしさも描いていて、それがおせんにも理解されていく姿が、この絵本で描かれています。
子どもたちにもそれが伝わることを願っています。