子どもの頃、昭和30年代の終わりですが、近くの海はまだ泳げていました。それがどんどん汚れて、そのうちに遊泳禁止になりました。
それでも電車に乗って何駅かいけば、浜寺公園という地名に残っているようなまだ泳げる海もありました、大阪湾にも。
今はどうなんでしょうね。
海が汚れて、そのうちにみんながきれいな海を取り戻そうみたいな気分になったから、きれいになっているのではないでしょうか。
私は海で泳ぐのが怖くて仕方がありませんでした。
だって、沖にいけば足が届かないのですよ、海は。
だから、浪打ぎわで蟹と戯れ派かな。貝殻拾ったり。海藻投げ合ったり。砂の城を作ったり。
この絵本はそんな子どもの頃の記憶がよみがってくる一冊です。
さまざまな形の貝殻、青や緑の宝石のようなガラス片、ペリカンのはね、遠い国の木靴、手紙のはいったビン、ヤシの実(そういえば、島崎藤村作詞の「椰子の実」という童謡がありましたね)、ウミガメの頭の骨(これはちょっとこわい)、こんがらがったロープ・・・。
作者のデブラ・フレイジャーさんはそれらをフロリダの海で集めたそうです。
海ってなんでも生み出す、お母さんなんです。
そんな海からの贈り物を少女とお母さんがさがしている様子がスケッチ風に書かれています。
お母さんは娘に「おおきすぎて いえにもってかえれない」大事なものがあることを教えます。
それって何かわかりますか。
おひさまです。水です。波の音です。夜明けの浜辺です。
それらは、海の贈り物よりもっと大切なものかもしれません。
当たり前すぎて、忘れてしまうほど。
貝殻拾いに夢中になりすぎて、海に落ちる夕日が大きいのを見逃していないでしょうか。
砂の城作りに夢中になって、海の匂いはとってもしょっぱいのを忘れていないでしょうか。
海はたくさんのことを教えてくれます。
だから、お母さんなのです。
日本語訳はまだ直木賞を受賞する前の井上荒野さん。