「ん」と「●」だけで表現された絵本です。見る人によっては、「●」の部分に文字を当てはめ、「わんわんわん」や「るんるんるん」など、犬の気持ちを表現する言葉に置き換えて、読み聞かせをしている方もいらっしゃるようですが、私はあえて、「ん」の文字一つだけで、犬の気持ちを表現できないかと思い、声色をいろいろと変えて読み聞かせをしていました。
犬がご機嫌で散歩をしている時には、軽やかに「・ん・ん・ん」、
何かいいものを見つけたぞという時には「ん?」と語尾を上げて、
ボールだ思って口にくわえたら、実は鳥の赤ちゃんだったとびっくりした時は、「んぅ・・ぐ」と奇声を上げて。
一番分かりやすいのは、鳥のお母さんが赤ちゃんを肩に乗せ、犬を2本の足でわしづかみにしている様子です。同じ「ん」なのに、お母さんは勇ましく、赤ちゃんはニコニコと、犬はぐったりと。使われている文字は「ん」だけなのに、読み方によって、こんなにも何通りの表現ができるなんて、それを発見してしまうなんて、五味さんはさすがだなぁと思いました。
巻頭にこの絵本について、「これは音の絵本です。文字の絵本です。そしてやがて、ゆったりと言葉がきこえてくる絵本です。お話が見えてくる絵本です。」と述べられています。確かにこの絵本を読む人、聞く人、人それぞれ、感じ方によっていろいろなお話を作ることができる絵本なんだと実感しました。