「戦争が終わったら、新しいオーバーを買ってあげるね。」
アンナのお母さんがそう約束したのは、厳しい戦争の時代のこと。でも、戦争が終わってもお店には物がなく、お金もない。そんな状況の中、お母さんは知恵を絞って、なんとかアンナに新しいオーバーを作ろうと頑張ります。
羊毛を手に入れるためにおじいさんの金時計を交換したり、糸を紡ぐおばあさんにはランプを渡したり。染料のために森でコケモモを摘んで、布を織るためにはネックレスを交換。最後にティーポットと引き換えに仕立て屋さんに頼んで、ついにアンナのための真っ赤なオーバーが完成します。
こうして出来上がった赤いオーバーは、アンナにとってただの服じゃありません。たくさんの人の手がかかり、時間をかけて作られた特別な宝物なんです。そしてクリスマスには、アンナとお母さんがオーバー作りに関わったみんなを家に招待して、素敵なイブを過ごします。新しいオーバーを着たアンナを見たみんなが「こんなに素敵なクリスマスは久しぶりだ!」と言い合う場面は心が温かくなります。
このお話は、実際にあった出来事がもとになっています。戦後の何もない時代に、ひとつのオーバーを作るのがどれほど大変だったか。でも、時間をかけて工夫して少しずつ作り上げるその過程が、アンナにとって大切な思い出になったんだと思います。
この絵本を書いたのは、アメリカのハリエット・ジィーフェルトさん。そして挿絵は、カルデコット賞を受賞したアニタ・ローベルさんが描いています。ローベルさんの絵は、アンナやお母さんの頑張りや、赤いオーバーの美しさ、冬の寒さまでも感じられる温かいタッチが魅力的です。
物があふれている今の時代だからこそ、こんなお話を子どもたちに読んでほしいと思います。ひとつのものに時間や手間をかける喜びや、人とのつながりの大切さを、親子で一緒に感じられる素敵な絵本です。