幼かった私の息子は、この本を読もうとはしませんでした。
でも何度も何度もランダムにページを開き、そこに描かれている線という線をなぞっては、擬音を発していました。
例えばそれが、雨の線なら「ざあざあ」、太陽の線なら「きらきら」。
その後文字が読めるようになった息子が改めてこの本を「読んだ」のかどうかは不明ですが、最初にその光景を見たとき、「さすが私の息子!」と思ったものです。
というのも、私が幼かった頃のマドレーヌの印象も、「線」。
マドレーヌは線で描かれた絵本。
激しい雨にはシャープな線
温かい日差しにはやわらかな線
暗い闇には漆黒の太い線
幼かった私は言葉でそれを表すすべを持ちませんでしたが、線のひとつひとつに感情がこもったこの絵本を、本能でとらえていたような気がします。
今改めて、文章と、そこに描かれている絵の中にある「線」を見比べて読んでみるとまだまだ新しい発見があります。
12人の女の子、顔がそっくりなのによく見ると表情が違う。
点と線でかかれているだけなのに、ちょっとした線のゆがみで、微妙に表情が違っている。
エッフェル塔の線は、背景が柔らかく太い線で描かれているために、ただ直線で書いてあるだけで金属的な固い印象を受ける・・・
幼いころの私にとっての「フランスの線」が全部つまっている本です。
ストーリーもすてきですが、「線」を読むのも楽しいですよ。