とても斬新な「しあわせの王子」です。
私が知っている「幸福の王子」では、つばめが王子の願いで、様々ものを届けた先のつらい情景が鮮明でしたし、みすぼらしく変わった王子像を解体するように命じた市長の歪んだ表情が忘れられないのです。
でも、この絵本では、王子像とつばめのふたりにしぼって、ふたり芝居のスタイルで通したのです。
王子が貧しい人々や困っている人々を助けようとした志は、本来行政者である市長の役割であったに違いありません。
人々の暮らしを顧みない市長に業を煮やした王子像が、自らを犠牲にして弱者を救済しようとした美談に見えなくもありません。
でも、南の国へ行くことを断念して、王子の手足となり人々に救援物資を届けたつばめも犠牲者です。
オスカー・ワイルドは、この作品に何をこめようとしたのか考えました。
動けない王子像とはいえ、他に方法はなかったのでしょうか。
美談のように思えても、つばめの命を奪ってしまったのは王子です。
つばめは忠実な殉教者です。
ふたり芝居で描かれるこの物語に、ちょっとモヤモヤを感じました。
世の中の苦しみに向き合おうとしない、市長のような人間像を、今の国政者と重ね合わせてしまったからでしょうか。