何度も何度も読み返して、シドニー・スミスにとってこの作品がどのような位置にあるのかを考えました。
「ねえ、おぼえてる?」と言いつつ、自らの記憶を掘り起こしていく作品です。
父親との別れは、どういったことだったのでしょう。
母親と二人、ベッドの中で思い出すのは父親も含めた楽しい時間です。
父親から渡されたくまのぬいぐるみとともに、母親と少年はビルだらけの街に引っ越してきました。
そして新しい生活の夜を過ごし、朝を迎えるのです。
この朝の気持ちを忘れていないから、二人は思い出とともに生きてきたのでしょう。
映画のラストシーンのような、野辺を歩く母親と少年の姿に、また読み返さずにいられない絵本です。
別れはあっても、これからを生きようと前を向いた、そして生きてきた姿の描かれた絵本です。
完成までに長い歳月を要した作品だと語られています。
その歳月の間、シドニー・スミスは自分自身と向き合ってきたのでしょう。
心揺さぶられる作品です。