よそと違う節分の行事を代々行っている少年の一家に起きた、鬼にまつわる怪異現象。いとこの少女を守るために、少年は鬼と一緒にあの世の世界を冒険する話。
昭和の田舎で幼少期を過ごした私にとって、この本に出てくる人々の会話やしぐさ、心の動きなどは、実に生々しく感じられる。令和になって、このような昭和感溢れる物語を紡ぎだせる作家がどのくらい残っているのだろうか。
少年の家族について、私は読みながら、自分の幼少期の田舎の経験を思い浮かべながらいろんな想像をした。うちでも鶏を飼っていたのと、大の大人が(この本に出てくる祖父と父)節分を、普段の仕事以上に気合を入れて行っていたこと。近所の子どもたちの、残酷ないじめや力関係のこと。不良上がりの若い夫婦と子どもたちの、エネルギーが有り余って大迷惑なこと…
どれも、いかにも生々しく、嫌な感じがするほど心に迫る。
心がざらつく、感情が動かされるのは、読者に具体的な思い出や、それらの人物や出来事に対する思い入れがあるからだろう。
どんどん忘れ去られていく昭和の風物を、見事に物語りに活写した作品だ。お話は少年の冒険を中心に、地獄やあの世の様子が描かれている怪談風。節分の時期、日本の各地でいろんな風習があり、それにはいろんな由来があるのだ。
単にスーパーで売っている紙で出来た鬼のお面付きの豆を買って、巻くだけの行事になって、絶滅危惧種の感がある節分。
鬼や異界の存在に対する敬意と、深い愛情が感じられる。大人でも充分に、読み応えがある作品だ。
この人の他の作品も読みたくなった。