「アイデンティティ」という言葉を初めて聞いたのは40年以上前、大学に入ってからだったと思います。
日本語で訳すると「自己同一性」とかになるそうですが、簡単にいえば「自分とは何か」ということです。
直木賞作家である森絵都さんが文を書いたこの絵本を読んでいて、真っ先に頭に浮かんだのが「アイデンティティ」という言葉でした。
もちろん、これは絵本ですから、といっても小学生以上向きでしょうか、そんな難しい言葉は出てきません。
「アイデンティティ」という言葉は難しいけれど、簡単にいえば「ぼくだけのこと」なんでしょうね。
他の誰でもない、「ぼくだけのこと」。
主人公の「ようたくん」にはきょうだいが二人いるけど、えくぼがでるのはようたくんだけ。
五人家族の中で蚊にさされやすいのはようたくんだけ。
学校の仲良し組は七人だけど、逆立ち歩きができるのはようたくんだけ。
こんな風にどんどんようたくんの世界は広くなっていきます。
クラス、学校、まち、せかい、そして宇宙。
ようたくんに似た男の子は世界のどこかにいるけれど、似ているだけでまったく同じということはない。
それはようたくんだけではない。
この絵本を読んでいるみんなが、別々の「ぼく」や「わたし」で、それぞれが「自分だけのもの」を持っているということを、この絵本は教えてくれます。
「アイデンティティ」という言葉は舌を噛みそうな言葉ですが、もっとやさしく言えればうんとわかりやすいのに。