1960年(昭和35年)から1年間、少年向け雑誌に連載され、1964年(昭和39年)に単行本として発行された児童向け探偵小説。お馴染み少年探偵団シリーズ第23作目。
都会のど真ん中に、いきなり「火星人」が現れるという、シュールな事件から物語は始まる。中村少年と友達たちが自宅で望遠鏡を見て遊んでいると、鉄塔にタコのようなものが…。昭和の手作りコント・ドリフターズを思わせる宇宙人ぶりに、思わず昭和世代はツッコミを入れたくなるだろう。平成、令和生まれの世代には、なかなかこの面白さはわからない。なにせ、最近の「宇宙人」はずいぶんスタイリッシュになったもんだから。
その後、「月世界旅行」という見世物小屋(アトラクション)ができたり、世界的に危険な発明で有名な遠藤博士の発明を盗む犯行予告や誘拐事件など、どんどん奇怪な事件が起き続ける。手加減なしで、ボスキャラばかり出てくるような、実に大胆でスピーディーな展開だ。ややホラーめいた演出や、トリック(密室もの)もあり、頭を使う場所もあるが、全体的に「大味な見世物小屋」感をたっぷりめいいっぱい楽しめる。
乱歩先生、シリーズ最後の方の作品だから?か、これでもか!!というくらい、濃いネタを披露してくださる。サービス精神満載で、お腹いっぱい。箸休めのないフルコースを延々と食べさせられている感じだ。
難しい事はないので、ミステリ初心者でも、楽しく読み切れるので、ぜひ挑戦して欲しい。昭和レトロ&ミステリ。当時を知る人には、ちょっと懐かしい描写もあるかも。当時を知らない世代は、ネットなどで1960年代の雰囲気を知ってから読むと、イメージがつかみやすい。
それにしても、少年探偵の団長の小林少年が自動車を運転で来たり(当時は何歳から運転できたのだろうか?)、ポケット小僧が常にアグレッシブに敵の根城に単身で忍び込んだりして、やる気満々で頼もしい。行動力があった60年代。素晴らしい!メタボの少年とかありえない時代だ。
余談だが、
ポプラ社から2009年に葉こうされている「ポプラ文庫クラシック」(定価540円)では、同作品の巻末に中島かずき氏のエッセイがついてくる。初めて出会った乱歩作品が、本作だという。
巻末に解説やエッセイなど、当時、現役の読者少年だった人や専門家の話が書いてあり、面白い。ポプラ社から複数、シリーズが出ているが、解説の読み比べも楽しいと思う。