ふと手にした絵本の文章は有吉佐和子。
大家の多分唯一の手掛けた絵本作品でしょうか。
人間描写に深みと艶のある小説を手掛ける作家にして、自分流の文章をそぎ落としていくとともに、自分の文体を失わない作業は大変だろうと思いつつ、非常になじみやすい物語だと思いました。
生まれながらに髪の生えない女の子。
女にとって「髪は命」なのですね。
我が子の頭を不憫に思った母親が、自分の因業に報いるためと、漁を妨げる「ひかりもの」を取りにと荒海に一人飛び込みます。
ひかりものは金の観音様でした。
海の荒れは治まりましたが、母は死んでしまいます。
それから娘の髪は伸びはじめ身の丈以上になっていきます…。
その娘が髪が縁で京に上り天皇家に迎え入れられ、文武天皇の妃になり聖武天皇の母となります。
歴史小説をものとする有吉さんを考えると、ひょっとして「かみながひめ」を題材とした長編小説があるのでしょうか、歴史の重さにそったお話でした。
秋野不矩さんの絵も日本画家の大家として、寺社縁起にたがわない趣と落ち着きのある絵で物語に気品を加えています。
先に読んだ『道成寺』にまつわる伝奇に加え、道成寺の縁起ということで紀伊の名刹の知識が増えました。
余談ですが、この本を手にしたのは図書室で『ラプンツェル』のそばに配架されていたから。
『ラプンツェル』の日本版と勘違いしてしまいました。
「かみながひめ」が塔に閉じ込められていたら、天皇家は途絶えていたのですね。
関係者各位、神聖な名作に対して、不謹慎な動機で申し訳ありません。