唐代に活躍した画家ハン・ガン(韓幹)という実在の人物がモデルのお話です。
幼くして家計を助けるべく酒屋の配達人(作品では食堂の出前)となりますが、ワン・ウェイ(王維)に見出され、その経済的援助を受けて絵画を曹覇に学びます。
腕をあげ、玄宗皇帝に、宮廷の絵師になるための学校に入るよう召し抱えられました。
昔の絵を手本に描く陳氏を師として馬を描かせますが、師とは似ない作品を描いたのでこれを詰問したところ、
「臣は自ずから師有り。陛下内厩の馬、皆な臣の師なり」と答えたという逸話をかつて読んだ記憶があります。
絵本という形で再会できるとは、思いもしませんでした。
前人の画法を踏襲するよりは、対象そのものを観察し描く、自然主義的な作業を主張し、それが認められ師を離れ、結果、その技量は師を越えたという人物です。
ハンガンが、「真」を追求した結果、絵から飛び出す勢いの馬が描かれれるようになり、本作品のストーリーへと繋がって行くわけです。
『西陽雑俎』にもこのような話が見られます。
ハンガンの画力が充分につたわってくるチェン・ジャンホンさんのこの絵本は、その域を越えた芸術作品だと思います。
絹地に墨と絵の具を用いて描く手法を、ハンガンと同様試みられたこの作品は、読者をハンガンの時代へと連れて行ってくれます。
後書きまで、息子は食い入るように読んでいました。
今も昔も“本物”には“力”がありますね。