いつでもはあはあ笑っている主人公、虔十(けんじゅう)。
ほかの子どもらに、その様子をいつも馬鹿にされていました。
彼が揶揄されながらも植えて育てた杉は、時を重ね、立派な林に。
その美しい林は守られ、人々にずっと愛され、
たくさんの幸せをもたらすのでした。
長い文章であること、
虔十が少し頭が足りないという描写が重ねてあったり、
理不尽な理由で死んでしまったり、
小さい子どもには不向きな内容かもしれません。
それでもいつか娘に読ませたい絵本です。
ーーああ全くたれがかしこく
たれが賢くないないかはわかりません。ーー
故郷を久々に訪れた若い博士による言葉、
そして広がる美しい林(見開きを使った昼夜二つの風景)が、
心に響きます。
虔十のひたむきさ、自然へのたゆまぬ愛。
賢治氏の強いメッセージを感じます。
最後のページには石碑が描かれてあります。
虔十の偉業を感じながら裏表紙をみると、
そこには、林がにぎやかな様子で笑う、彼の影が。
馬鹿にされようが、名誉を受けようが関係なく、
子どもらが林を楽しむのを、そっと見られるだけで、
虔十はじゅうぶんに幸せだったのですね。
普段、人の評価を気にして小さくなってばかりの私には
彼の笑顔と黄色く塗られた林がひときわ輝いて見えました。
その素朴さと雄大な自然に
心を正されたような気持ちにもなる絵本です。