『こんこんさまにさしあげそうろう。』の言葉がグッと心に残る一冊です。作者のふるさとに伝わる≪のせぎょう≫といって、冬、食物がなくて困っている狐の為に、村の子ども達が、「お稲荷様」に食べ物をお供えする行事を絵本にしたものです。辺り一面真っ白な雪の中、池も凍って魚もとれない。「さむいよう・・・」「おなかすいたよう・・・」と切なくうったえる子狐を、なんとかしてやりたくて、危険を承知で村里に降りる母狐。そこに聞こえてくる『こんこんさまにさしあげそうろう。』と子ども達の澄んだ声。
近頃、熊や山羊・猿等々、山から降りて来て、人間とトラブルになっている記事を目にすると、この絵本が、頭を過ぎります。大自然の中、人間と動物が同じ世界に生きるものとして大切にしなくてはならないものが、ここにある様に思えます。梶尾俊夫さんの挿絵も柔らかで、すてきです。