絵本作家いせひでこさんの、2018年5月に出た詩画集。
いせひでこさんは『ルリユールおじさん』や『あの路』などたくさんの絵本を創作しているから絵本作家であることは間違いないが、画家でもあって、絵本になっていない多くの絵画を描いてもいる。
この詩画集は、画家としてのいせさんの創作だといえる。
この本のもとになっているのは、月刊俳句誌「岳」の表紙絵である。
毎月というのではなく、半年に一枚、それが10年続いたという。
それらを集めて、本書が生まれた。
俳句誌の主宰の宮崎静生氏は「絵本のような表紙絵でいいですよ」と、いせさんを励ましたという。
けれど、この俳句誌を手にした結社の人たちは、いせさんの絵に俳句ごころを揺り動かされたのではないだろうか。
平成最後の春、ニュースでも報じられた満開の桜に降り積む雪。
そのことを「桜かくし」という美しい季語があることを初めて耳にした人も多かっただろうが、いせさんはそれを2010年に描いている。
その絵につけられた文章が「ふっていたのは 休符だけの音楽」。
いせさんは俳句を詠まないというが、これだけの短詩を詠むのだから、俳句もきっとすごい素養があるにちがいない。
いせさんが俳句誌に描いてきた10年の間には東日本大震災が起こり、復興の時間もあった。
いせさんがそんな時間の中で見つけた大きな流木も朽ち、撤去された。
そんな時間を、いせさんはページの最後にこんな俳句として残している。
「見える蝶 見えざる蝶も 風をよむ」。