深く美しい緑の中に、赤いとんがり屋根のねこの家が見えます。
「ねこは いえじゅうのまどを いっぱいに あけて、よくさました こうちゃを のんでいます。」
色とりどりの花が咲き誇る庭、そして家の中はさっぱりときれいで、暮らしの道具のひとつひとつや紅茶の缶からも、心地良い丁寧な暮らしが伺えます。
こぶしの小枝をいっぱい積んだトラックが到着すると、ねこの仕事の始まりです。
そこへ小枝をほしがる不意の客がやってきて、、、
美しい細密画に見入ってしまう、心温まる絵本です。アングルを大きく変えたり遠近を使い分けて、優れたカメラワークの映像のように印象的な絵が、ストーリーを展開していきます。ねことことりのお互いを思いやるところがとても素敵なのですが、ねこからの視点が気になります。
ねこは、自分の生活を楽しみながら毎日の仕事をこなして、一見安定したループの中で暮らしていました。しかし小枝をもらいにやって来る小鳥との交流は、そんなねこの気持ちを揺らしていきます。「まいにちが うんと たのしく」なったかと思うと、ことりが来なくなったランプの明かりだけの部屋は、ねこの心の中のように暗く沈んでいます。
時が過ぎて、ふたりのの会話のなかで気になっていた匂いの話が予想以上のハッピーエンドをもたらしてくれて、花のクローズアップは感動的です。
最後のページ、ことりからもらった花束を胸に、無言で立っているねこの表情が何とも言えず、物語に奥行きと余韻を与えています。
なかのさんの師匠で文章担当の舘野さんは、続編としてねこ側のストーリー、ことり側のストーリーも作ってあるのだとか。是非お二人での続編に期待したいです。