9月。日中は相変わらず気温が上がって暑さが続きます。でも、風の感じ、空の色、庭の表情…どこかしら、夏休みの頃とは違っている気がします。日差しにしたって、盛夏のそれと比べたら、いくぶん衰えているような。
町をゆけば、すれ違う人の中に長袖を装った姿がちらほら見えて。だけど、楽しくて大好きだった夏が移ろいゆくことなんて考えたくなくて…大切な思い出の数々もが、いっしょにどこか遠くへ去ってしまうような感じがするのを否定したくって、まだまだ半袖のシャツに手をとおし、夏じゅうどこへ行くにもかぶっていった、お日様の匂いをたくさん吸い込んだ麦わら帽子に手を伸ばしてしまうの。
絵本の扉を開けると、空に向かって、あるいは去りゆこうと裾をひるがえす夏の精に向かってか、長く伸びた腕のような枝をゆうらゆうらと振りつづける秋口のサルスベリが印象的なのです。
そして、波打ち際にそうっとしゃがんで、繰り返し寄せては引いてゆく波に映る太陽の光を、目を細めながら眺めつづけていた小さい頃の自分に会えるのがなつかしい。…聞こえてくるよ、あの夏の日の波の音。
破れたつばの縫い目から出て行ってしまった夏。麦わら帽子のひなたの匂いは、楽しかった夏のひとこまひとこまを、何から何まで思い出させてくれます。心地よくいい匂い。だけどせつない匂い。