この絵本の、日本での初版は1979年だが、元々はアメリカで『CROW BOY』として1955年に出版されています。
作者のやしまたろう氏は1908年に鹿児島で生まれたれっきとした日本人です。
日米開戦が起こる前、1939年にアメリカに渡って、そこで絵画や絵本創作の活動をしていました。
やしま氏のそんな絵本がアメリカから遅れること24年、日本で出版されることになった時、やしま氏はどんな感慨をもったことでしょう。
日本版の絵本には、つまり1979年3月12日と日付の入ったやしま氏の献辞がついています。
献辞には、この絵本を二人の恩師にささげる、とあります。
この絵本の主人公、後半に「からすたろう」と呼ばれるようになる少年は村の小学校にはじめてはいった頃からしばらく級友たちから「ちび」と馬鹿にされ、のけものになっていました。
少年にとってつらい学校生活が5年も続いて、6年生になった時担任の先生が変わります。新しい先生は少年にやさしく、少年の長所もたくさん見つけてくれました。
そして、その年の学芸会の日、先生は少年にも時間を与えます。
少年が演じたのは「烏のナキゴエ」。
少年は実に見事に烏の鳴き声を演じました。
何故少年が「からすたろう」と呼ばれるようになったか、もうおわかりでしょう。
このなきごえを聞いた級友も大人たちも、少年を馬鹿にはしなくなったのです。
人には個性があります。その個性は特に隠れたままの時もあります。
それを見つけ出してくれる人こそ先生なのかもしれません。
おそらくやしま氏にも、少年の担任となったような先生がいたのでしょう。
だから、この絵本の日本版に恩師への献辞を書いたのだと思います。