グレゴリー・サンプソンはある朝、目を覚ますとでかいムシになっていました。……で始まるこの作品は一昨年ごろ、こちらの書店で随分大きく売り出されていました。英語名は「Beetle Boy」。フランツ・カフカの「変身」にヒントを得て誕生した作品とあるとおり、これは風刺絵本とも読み取れるし、深層心理を描いたのか……とも考えられ、大人として考えさせられました。
小学2年生のグレゴリー。彼がムシになったことに気が付いてくれたのは親友のマイケルだけ。あとは父親、母親、妹でさえ一日の最後になるまで気が付かないのです。家庭でも学校でも、親友以外は誰もグレゴリーに気付いてくれなかった。これは一体何を象徴するのか? 日常生活や社会の中で、片すみに追いやられる一少年を描いたのでしょうか。そういえば、今日わたしはしっかり息子と心の交流ができたのか、思わず気になってしまいました。つまり、作者はそういうことを親や教師、社会に気付かせるためにこの作品を描いたのかなーと、反省させられたのでした。
作中、非常に米国らしい描写がいたるところに登場します。たとえば、朝おとうさんがお弁当を作り、おかあさんが新聞を読んでいるところ。(お弁当といってもたいていはサンドイッチですが。)また、夕方おかあさんが電話でおしゃべりしながら、にんじんを切っているところ。
豊かな国とされる米国。人々は皆自分のことに夢中で忙しく、人間同士の心の対話が見過ごされる傾向にある社会を少年の目から風刺したのがこの作品なのかな、と結論に至りましたが、どうでしょうか。ユーモアあふれるイラストが興味深い場面(米国の小学校生活など)を多く描き、子どもにとっては楽しめる内容です。(大人にとっては考えさせられる内容ですが。)少し長めなので、小学低学年からおすすめです。