主人公ふきのとうちゃんは、きこりの名人。
かあちゃんは病気でなくなり、「娘のふきには、りっぱなよめいりをさせてくろ」という遺言を残しました。その遺言を胸に必死になって稼ぎ始めるとうちゃん。とうちゃんが仕事をしている間は、ふきは、だいば山の大男・大太郎と一緒に遊んで時間を過ごしていました。
あるとき、でんでろ山の青おにがやってきて、とうちゃんは殺されてしまいました。そして、ふきは、自らの命を犠牲にして、とうちゃんのかたきを討ち、青おにとなだれの中に消えていきました。残された大太郎は、ただただ泣き崩れるばかり。
春になり、ふきのとうの芽をみるたびに、大太郎は、ふきを想い、おおつぶの涙を流すのでした。大太郎がなく時の「おろろんおろろん」という擬声語が涙を誘い、心に残る音です。
春の訪れを悲しむ者の心を描いた絵本に、今まで出会ったことがありませんでした。大太郎にとって、ふきはかけがえのない存在だったことでしょう。
印象的だった場面は、同じ作者の絵本「火の鳥」に出てくる少女と共通する場面ですが、娘がかんざしを手にして、敵に立ち向かう姿がなんとも勇ましく、心を打たれました。
すぎの木が倒れるときの様子、なだれの様子などの細かい描写はすばらしく、読み手のイメージ力を刺激してくれます。何度読んでも、切なく、心に染み入る作品です。