「ありがとう、わたしの生命」という始めの言葉と、
「ありがとう、わたしの生命」という終わりの言葉にひかれて、読みました。
私は、表紙と題名から、なんとなく外国が舞台のお話だと思っていたので、読んでみて、びっくりしました。
これは、「阪神・淡路大震災」のお話だったのですね。
絵を描くのが好きな、小学一年生の女の子、アスカ。
毎日夢を見て、夢の絵を描きます。
大きな橋。虹と白い馬、二つのおおきな花。
アスカは必ず夢の中で、「ありがとさん」といいます。
その言葉は、アスカのおばあちゃんの口癖。
ですから、アスカも、夢の中でそういうのでしょう。
ある日、アスカはおばあちゃんが橋に「ありがとさん」という理由を尋ねます。
おばあちゃんは涙をながしながらこう答えます。
「橋があなたを守ってくれたから」
淡々と書かれた文章が、余計に心に突き刺さります。
美しい絵が印象的ですが、
あるページは特に、記憶から離れません。
1月17日の、あの日。
私もアスカと同じ街にいました。
私の実家は山にありましたから、地震後の神戸が、すべて見渡せました。
あちこちから、火の手や煙が上がっているのが見え、あまりのことに、私はこれが本当のことだと、今一歩実感できずにいました。
私の隣で震えていた見知らぬ老人は、
「まるで、戦時中みたいだ」とたった一言いうと、押し黙りました。
その後、何時間も父と、食料の入った重いリュックをしょって歩き、知人を訪ねました。
私が歩いた道のそばで、いったい何人の人が亡くなったのでしょう。
その中には、アスカ、そしてアスカのお父さんお母さんのような方も、きっといらしたに違いありません。
ありがとう、私の生命。
この言葉の重みと深さを、ぜひ未来を生きる子供たちに知って欲しい。
私はそう思いました。