様々な本が、様々なアプローチで子どもたちに伝えようとしている昭和20年8月6日、ヒロシマ。
この絵本では、あの日あの時、突然止まってしまった時間の中に取り残され続けているモノたちが主人公です。その時刻をさしたままの壁掛け時計。食べてもらえなかったお弁当箱。いびつに歪んだビー玉。モノたちはそれぞれ時が止まる前の暮らしや思い出を語ります。そしてあの日の『ピカアアアアアッと』光った瞬間を。以来何かを探していることを。
それはまさにヒロシマの記憶そのものと言っていい。
詩人でもあるアーサー・ビナードさんの言葉は平明で率直です。感傷的でもなく、感情の昂ぶりもなく、淡々と紡がれた言葉たちはだからこそ、読む人の心の奥深くにしっかりとヒロシマを刻みます。そしてその出来事のたまらぬ理不尽さに私たちはおののくのです。
加えてアーサー・ビナードさんがアメリカに生まれ育った生粋のアメリカ人であることにも、ある種の感慨を持って読まずにいられません。あとがきに自国での学校教育において繰り返し原爆投下の『必要性と正当性を教えられた』とあります。その作者がこの絵本を作るにまで至った心の変遷はどのようなものであったでしょう。
証言者であるモノたちのポートレイト(写真)は眺めるほどに訴えかけてくるようです。「さがしています」と。そして「ノー・モア」と。
子どもにも、おとなにも、多くの人に手にとって欲しい一冊です。