お話し会のリーダーの方のお薦めで読みました。
読後すぐ、「ペドロの作文」(アリス館)を思い出しました。
不幸なことに、戦争や軍事政権下で少年少女時代を過ごさねばならない子どもたちは、過去にも今もたくさんいます。
こちらの作品は、実話をもとに作られたそうです。
1939年、第二次大戦開始で、オランダにもヒトラー率いるナチスドイツが攻め込み占領下に置かれます。
ベルギーとの国境近くのオランダの町スラウスに住むピートは、スケートに夢中な10歳の少年。
いつの日か(憧れのピム・ムリエイルが、自ら滑り、公式レースに立ち上げた)「エルフステーデントホト」という、11の町をめぐるオランダ最大のスケートレースに出場する夢を持ち続けています。
そんなピートが、1941年冬のある日、重大な任務をスケート作りの職人の祖父に言いつかります。
祖父の知人のウィンケルマンさんが、イギリスと無線機で連絡していたことでナチスに捕らえられ、身の危険を察知した、ウィンケルマン夫人が子どもたちを、隣国ベルギーのブリュッヘ(現ブリュージュ)のおばさんのところへ逃がしたいと思っています。
それには、凍った水路で遊んでいるがとごとくスケートで滑って行くのが、厳しいドイツの監視下で最も安全な方法でした。
その手助けをすることになったのです。
ドイツ占領下でも、オランダ人のスケートが許されていたのです。
ヨハンナ(9歳)とヨープ(7歳)姉弟と一緒に、警備兵が目を光らせる中、命がけで凍った運河16キロをスケートで滑らなくてはならないのです。
事情がばれたら即捕らわれてしまうかもしれないという、訳有りの姉弟をドイツ兵から護りサポートし、滑り続ける勇敢なピートの胸の内の緊張感が伝わってきます。
スケートが氷上を滑る スイッシュー スイッシューの音が、なんとも読んでいて読者をも「早く 早く」と焦らせます。
手に汗を握りつつ、読み進めました。
10歳で最悪の場合は死″と腹を決め、心の中で歯を食いしばり、大人(それも敵兵)と対峙しなければならない時代が、とにかく悲しい。
ピートにとって貴重な体験になったかもしれないけれど、子ども時代にこんな経験で勇気を育む必要はないと思いました。
また、こういう機会を子どもに与えぬよう、現代の戦火を少しでも消せたらと思いました。
結末は、皆さんで確かめてください。
巻末に、「それから・・・・・・」と「作者より」の補足があり、じっくり余韻を楽しめました。
少々文章量が多く内容も複雑なので、高学年以上の方にお薦めします。
ソチ五輪でのオランダのスケート選手の活躍は、400年以上の歴史を持つオランダの方々にとって、さぞや誇らしいことだったでしょう。