都会の夜はイルミネーションがきれいだ。
澄んだ冬の夜を彩る、今や風物詩といっていい。
恋人たちは愛を語りあい、家族は笑顔にあふれる。仕合せに満ちた季節だ。
でも、森ではちがう。
氷つくような寒さの、一面雪景色におおわれた山の夜はまったくちがう。
小動物たちは冬だといって安心はできない。夜だといって心休まるわけではない。
雪の巣穴にうずくまっている野うさぎの子の夜も。
『あらしのよるに』でさまざまな賞を受賞し、動物絵本で人気の高いあべ弘士さんが絵を担当したこの作品は、さすがあべさんと満足のいく仕上がりだが、それよりもいまむらあしこさんの文がいい。
冬の山の一夜のできごとを、母うさぎをなくして初めての冬を迎える野うさぎの姿を通じて、動物たちが懸命に生きる姿を活写している。
それは都会の夜とはまったく違う。それでいて、生きることの重さを痛切に感じる。
いまむらさんの文章のすごいところは、動物たちの動きを的確に表現している点だ。
たとえば、野うさぎの子の毛づくろいの場面。
「耳を かおのまえに ひっぱり、まえあしで、ていねになでつけます」なんて、まるでそこに野うさぎの小さな鼓動が聞こえそうだ。
だから、夜の雪の森で、野うさぎの子が陸ではきつねから、空からはふくろうに襲われる場面の、胸がどきどきすることといったら、ない。
「あしをとめた そのときが、のうさぎの子の いのちの、おわりなのです」と書かれたら、応援するしかない。
この子を助けてあげて!
くる、くる、きつねが。くる、くる、ふくろうが。
逃げて、野うさぎ! 駆けて、野うさぎ!
子どもたちの声援が聞こえてきそうな絵本。大人だって、夢中になるのだから。
それに加えて、あべさんの絵だ。
なんとか逃げおおせた野うさぎの子の、朝の光にすくっと立つその姿の凛々しいことといったら。
いのちの美しさにちがいない。
都会の冬の夜を彩るイルミネーションはきれいだ。
けれど、命をかけた冬山の夜は、もっと生き生きとしている。ただ、そのことを知らないだけ。
この絵本は、そっと、そんないのちの漲る夜を教えてくれる。