大きなつながりに抱かれながら育まれていった少年の成長が瑞々しく描かれ、森と音楽の世界に引き込まれていく珠玉の絵本です。クリスマス、もしくは初夏、高学年以上の学生さんや、お父さんお母さんになられる方へのプレゼントにもいいと思います。子どもを大人の付属物ではなく、一人の人間として育てたい、そんな絵本でもあると思うからです。
さて、経験したもの、見たものを描く画家の いせひでこさんは、チェロの美しい木目(マキアート)に触発されて、制作者に会うためにイタリアのクレモナに出かけ、取材をされたそうです。
祖父と父、そして演奏家の存在に影響を受け、悠久の時をたたえた森に包まれ育った少年。絵本の言葉の確かさ、絵の奥行きや森の広がり、深い懐を感じながら絵本をめくっていき、季節の美しさや多感な少年時代のみずみずしさや、思索、希望が薫ってくるように伝わってきます。木に宿る生命、木の記憶している風景や音。それらが宿った木が職人によって楽器になり、木の見聞きしたものがチェロに宿っていく。曲を作った音楽家がいて、演奏者がいて音楽になる。「星がめぐるように、音楽が時間をこえてみんなをつなげていた」。また待つという時間の豊かさに醸成されて存在していくものの豊かさを感じます。
最後に主人公は、子どもたちにチェロを教える道を選び、おとうさんが残してくれたチェロは教え子たちの腕の中で鳴り続けている。ちいさなころの主人公が感じた、「時間をこえてみんなをつなげていた」音楽の世界に主人公もまた連なり、伝える人になっていった。主人公が、森と音楽の星めぐりの一部になったようです。
そのラストに ほっとため息をつきページをめくると、紅茶のように透明であったかくうつくしいものが、さえずりながら読み手を待っています。
聞き手の11歳も、一心に聴き、ため息をついていました。