百年の家のロベルト・インノチェンティが絵を描いた作品なので読んでみました。
表紙のおよそ写真としか見えない絵は、彼にしか描けないと思えるもの。
このモノクロの一見してナチスドイツ軍と分かる絵に、ピンク色が施してあるのは、それが、象徴するものであることが読後に分かりました。
百年の家とは、また違った意味合いで、心を揺さぶられる作品でした。
この作品は、実話です。
著者が、1995年にドイツのローテンブルク市で、出会った女性、それがエリカです。
そのエリカの語った生い立ちを絵本にしたものなのです。
ユダヤ人強制収容所行きの列車に、ユダヤ人が乗り込むシーンから始まりますが、エリカは何処にいるのか分かりません。
その列車は貨車で、兵士の側に乳母車があるので、もうエリカは貨車の中にいるということなのでしょう。
エリカが確実に描かれてるのが分かるのは、その貨車の天井近くの窓から外に投げ出される瞬間です。
お母さんが、エリカを走っている貨車から外に放り投げたのです。
その時、エリカを包んでいた毛布の色がピンク色。
そのまま、貨車に乗っていれば、死しかない。
本当に僅かな生き残る可能性を信じて、この行為に託した想いを想像すると、胸をかきむしられそうな気持ちになります。
母の子を想う気持ちを、極限まで昇華した凄みに圧倒されました。
『お母さまは、じぶんは「死」にむかいながら、わたしを「生」にむかってなげたのです。』
と言う一文が、この絵本の全てです。
戦争の悲惨さ以上に、母の愛、生の意味といった根源の問題について読み手に訴えてくる絵本です。
著者がエリカと出合ったこと、それこそが奇跡だと言えるのではないでしょうか?
もっと、多くの人に読んで欲しい一冊です。