鶯の美しい声に誘われ道に迷った若者がたどり着いた家には、十二の蔵がありました。そこに住む姉さまから留守番を頼まれた若者は、「一から十一までの蔵は開けてもいいが、十二の蔵は開けてはいけない」と言われます。一の蔵はお正月、二の蔵は節分、三の蔵は桃の節句……。若者が蔵の戸を開けるたび、そこには月折々の姿が現れました。
春休みに一時帰国をした際、娘、母といっしょにこたつで丸くなって読んだ絵本です。描かれる四季の彩りが見事で、あらためて日本の季節の美しさを実感しました。赤羽末吉さんのイラストが、まるで屏風絵のようで風流さを醸しています。若者と蔵の戸の黒いシルエットが、情景をさらに際立たせていて効果的。子どもの頃にも、この民話の「月」ごとの祭事に随分魅せられました。自然といっしょに営む暮らしの豊かさに、とにかく感嘆です。
さて、開けてはいけないと言われていた十二の蔵は……。一から十一までこれだけ美しい光景を目にするのですから、十二の蔵を開けたくなるのは人の情というもの。お話の最後、夢から現実に戻る儚いひとときが好きです。