
ある町の小学三年生たちの放課後の時間。それぞれの「ひみつ」が少しずつ触れ合って……。
足立くんは学校から帰ると、電車を見るためにふみきりに来ます。走っている電車を目玉を動かしながら見ると止まったように見えて、乗っている人が見えることを最近発見しました。それは足立くんだけの「ひみつ」です。しかし、同じクラスの小川さんに見つかって、小川さんにだけ「ひみつ」を話します。その小川さんは、お母さんに「買いぐいはだめ」っていわれていましたが、下校中にだがし屋さんでひもあめを買います。小川さんにはひもあめを買ったらやってみたいことがあったのです。けれどもだがし屋で同じクラスのうっちゃんこと内海くんに会ってしまいます。その内海くんはおじいちゃんのお見舞いへ行き、おじいちゃんにこっそり「ひみつ」の液体を渡すのですが、その帰りに立ち寄った公園で、あまり学校に来ていない上田さんを見つけます。内海くんは上田さんに好きな給食の献立の時だけ学校に来てみたら?と提案します。
物語では、大切にしておきたい「ひみつ」がそれほど親しくしていなかったクラスメイトに知られてしまいます。でも知られたことで、思わぬ素敵な展開へとつながっていくのです。私がとくに素敵だと感じたのは、子どもたちはそれぞれに「ひみつ」を持っているけれど、だれかの「ひみつ」的なことに触れたときの反応がやさしかったり、ほとんど動じなかったりするところです。そして意識的にか無意識なのか相手にかける言葉もやさしくて、温かな関係が生まれていくところがとても魅力的です。子どもたちがこんな風に子どもが生きる世界の中で、言葉をかけたり関わりあいながら元気をもらったりする様子には、たくましさを感じるとともに希望を感じました。
また、自分だけが見つけた発見、やってみたいとあこがれていること、ちょっと気が重くなること……、そのひとつひとつが子どもたちの世界では重要なことだということが伝わってきます。さらに物語の細部に出てくるちょっとした事柄:授業中にふと気になった金魚のふんのこと、だがし屋のひもあめでなんの味が当たるか、自分だけのお守りの存在……などは、大人にとっては忘れてしまっていた子どもの時の感覚が呼び起こされる楽しさも。
小学三年生の心の動きや行動を丁寧に生き生きと文と絵の両方で描き出したのは、絵本作家で画家の堀川理万子さん。この作品は、「おとなもこどもも楽しめる物語」ということで、2025年1月に第40回坪田譲治文学賞(※1)を受賞しました。また編集を担当された「らいおんbooks」(※2)による初めての読み物作品にもなります。〈五感で読む新しい物語〉とのコンセプトで、子どもたちの日常生活から紡ぎだされたリアリティのある物語が、子どもたちを知らない場所へ連れていき、世界を広げる言葉たちを五感で吸収してほしい、との願いが込められています。
物語に登場する小学生たちのような日常を今まさに過ごしている子どもたちへ。また大人の方にも。子どもたちは不思議と元気が出るような、大人は子どもの時の感覚を思い出すような。子どもと大人を繋ぐ架け橋のようでもある特別な物語をぜひ体験してみませんか。
※1)岡山市出身の児童文学作家・坪田譲治氏の業績を称える文学賞として、毎年岡山市が前1年間に刊行された文学作品の中から選考する賞。
※2)「面白くて楽しい本を、自分たちの手でつくってみたい」という想いであつまった児童書編集者、書店員、出版社営業の4人のグループ「らいおん」が立ち上げた児童書レーベル。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)

絵本作家で画家の堀川理万子さんが作絵で手がけた物語。小学3年生たちは、それぞれちょっとした秘密を持っている。電車好きの足立くん、ごきげんさんの小川さん、生きものに詳しいうっちゃん、学校がきらいなしゅうこ。…お互いの「秘密」を知って、なにげない言葉を伝えたり伝えなかったりするクラスメイトを、放課後の日ざしのようなやわらかさで描く。版元を超えて活動する「らいおんbooks」編集による、初の読み物作品。
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