どうぶつのわかっていること・わかっていないこと(小学館集英社プロダクション)
「答えのない問いに向き合う力」をはぐくむ新感覚の絵本
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インタビュー
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2022.03.24
「どんぐりむら」シリーズ(学研)や「そらまめくん」シリーズ(小学館・福音館書店)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)など人気キャラクターを次々と生み出し、コンスタントに新作を刊行しているなかやみわさん。人気絵本作家なかやさんによる、「科学」と「心の成長」をテーマにした新作絵本『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』が3月22日に発売されました。自分に自信がなかった「たねこちゃん」が、旅立った先でどう成長していくのかを丁寧に描いた本作。絵本に込めた想いや新シリーズへの期待などを、なかやさんにお伺いしました。
出版社からの内容紹介
たねこちゃんは、たんぽぽの綿毛の子。小さくて弱くて自分に自信がありません。ある日突然、旅立つことになり散々な目に。旅先で出会った苔のみんなには「君ならできる!君はすごい子」と言われ……。泣いて、笑って、心が暖かくなる楽しいお話。
この人にインタビューしました
埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科グラフィックデザイン教室卒業。企業のデザイナーを経て、絵本作家になる。 主な絵本に「そらまめくん」シリーズ(福音館書店・小学館)、「ばすくん」シリーズ(小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(学研)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(ミキハウス)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)など多数ある。愛くるしく魅力的な登場人物を描いた絵本作品は、子どもたちに絶大な支持を受けている。
───なかやさんは絵本を制作する時に、資料調べはもちろんのこと、ご自分でも実物を探したり取材を行ったりと、題材を深く、詳しく調べていらっしゃいます。職業をテーマにしたおはなし「どんぐりむら」シリーズでは、たくさんのどんぐりを調べ、パン屋さんや本屋さんなどを取材なさったと、過去のインタビューでもお伺いしました。『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』は「科学」と「自己肯定感を育てる」がテーマになっていますが、絵本はどんなきっかけで生まれたのですか?
なかや:『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』は、今の子どもたちが置かれている状況と科学の視点を併せ持った絵本を作りたいということで、編集の富澤さんから提案を受けたんです。私は科学の分野には疎いのですが、科学は子どもにとっても身近で興味のある分野なので、すごくおもしろそうな企画だなと思ったんですね。専門的な分野に関することは、きちんとフォローしていただけたらできそうだなと思ったので、お引き受けしました。
富澤:私は長年、学研で「科学」の編集に携わっていました。1つのテーマをじっくりと掘り下げる科学の研究の世界にはたくさんの物語があって、「いつかそれを子どもたちに伝えられたらな」と思っていて。「絵本を作りたいと考えている」と編集部の上司に話したら、なかやさんはどうかと推薦されたんです。
───なかやさんの作品を読んで、どんなところに魅力を感じましたか?
富澤:そらまめやどんぐりのように、小さなものに生命を見いだして活き活きと描くなかやさんの作品は、とても素晴らしくてかわいくて。なかやさんのその視点が、小さな虫の一生や、植物の一粒の種を研究するような科学者の視点と同じだなと気づいたんです。なかやさんに描いてもらえたら、きっと素敵な絵本ができあがるだろうということで、企画がスタートしました。ですから出発点は「科学」の絵本。「心の成長」は、おはなしを作る中で生まれました。
───そうだったんですね。では、絵本の制作に入るときに、なかやさんは「科学」というテーマにはどのように向き合いましたか?
なかや:絵本の題材にしているものが、科学に近しいものだったのは偶然なんですよ。「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)もそうですが、子どもの目線に立った時に、自然科学という身の回りにある題材は、子どもたちが共感できるものだと思うんですね。ですから「科学」を強く意識していなかったけれども、結果的に「科学的な視点」の方向に流れていったのかなという気がします。
───「どんぐりむら」シリーズでは、どんぐりの種類ごとの特徴がちゃんと絵で伝わるようになっていたので、自然観察にも役に立つと思っていました。それが「科学的な視点」に近いというのは、納得です。
なかや:「科学」の視点で描かれている絵本は意外と少ないんです。科学にはすごくおもしろい題材がたくさんあるので、そこをうまく引き出して絵本にできたら、「科学」に興味を持ってくれる子どもたちも増えるのではと思うのですが、それには「科学」についてきちんとアプローチできる理系の編集さんが必要になります。
『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』は、富澤さんが企画の段階でおはなしの設定の大きな骨格を作ってくれていたので、私はシーンごとの疑問点を逐一確認しながら絵に落とし込んでいくという作業だけで、一からすべて自分で制作する絵本よりも楽をさせていただきました。質問にも、きちんと納得できる答えが返ってくるんです。私は自分が納得しないと形にできないので、そこが良かったですね。
───おはなしについてお伺いします。たんぽぽを主人公にしたのはなぜですか?
富澤:ふわふわしていて、小さいものを描いてもらいたいなと思ったからです。
なかや:子どもたちにも身近な植物ですしね。
───たねこちゃんのキャラクターは、どんな風に作っていきましたか?
なかや:企画段階の設定が「一番小さくて、弱くて、くよくよしてしまう子」だったので、そのまま素直に絵にしてみました。たんぽぽは1本の花にたくさんの綿毛をつけるので、その綿毛はみんなお兄さんやお姉さん。たねこちゃんは、自分が一番小さいので自信がなくて。でも最終的に飛び立って、見知らぬ場所で花を咲かせるというストーリーです。
その状況を今の子どもたちに照らし合わせて、自分にすごく自信のない子が多いけれども、少しずついろんな経験をして成功体験を積んで「自分はできるんだ」ということに気づいて欲しいなと思ったんです。
───たねこちゃんを描く時に工夫したことはなんですか?
なかや:たねこちゃんは一番小さい子なので、存在感を出すのがちょっと難しかったですね。どうしても、ほかのキャラクターのほうが大きくなってしまうんです。私も、こんなに小っちゃな主人公を描くのが初めてだったので、どのページでもなるべく視点がたねこちゃんに行くように、レイアウトを考えました。
───そうだったんですね。絵本のページを見ていくと、たんぽぽの生え方や生えている場所など、「そういえばたんぽぽってこんな風に咲いている!」と思うシーンばかりでした。なにか具体的な場所をモデルにしたんでしょうか?
なかや:富澤さんのラフを見ながら、1場面ごとに私が細かく状況を聞いてイメージを作っていきました。まずは、たんぽぽがどんな場所に咲いていて、綿毛がどういう風に飛ばされて、最後はどこに辿り着くのかという流れですね。私たちはたんぽぽの花が咲いて綿毛になっている状態と、新しいたんぽぽがコンクリートの隙間などに生えている状態しか知らないので、「なんでこんな所に、たんぽぽが生えているんだろう」と不思議に思うわけです。実際に綿毛の種がどんな所を通って、どんな風にコンクリートの隙間まで辿り着いたのかを教えてもらいました。
───最初にたんぽぽが咲いているのは、野原ですか?
なかや:土手ですね。自然豊かな田舎でもなく、コンクリートだらけの街中でもない場所で、川の土手があって大きなスーパーの看板なんかが遠くに見えて……と聞きながら、なんとなく「私の知っている所だと、子どもが小さい時によく自転車を乗りに行った土手のあたりかな」と、自分の中で場所のイメージを固めていきました。
───たねこちゃんは、最初土手の上に咲いているたんぽぽの子だったんですね。たんぽぽはどこにでも生えていますが、土手を選んだ理由はあるのでしょうか?
富澤:たねこちゃんにとって、わざわざ冒険に出たくない幸せな場所ということで日当たりのいい土手になりました。隣の土手から種が飛んできて花が咲いたという、実はすぐ隣にあるすごく小さな世界の出来事なんです。ただそれだけですが、子どもの感受性で丁寧に観察すると子どもだけではなく、大人も楽しめる物語になりました。ぜひ、お子さんと土手を散歩するときに、たねこちゃん探しをしてくれると嬉しいです。
───子どもだけでなく、大人の楽しみもあったとは驚きました! たねこちゃんは、兄弟みんなが飛んでいった後も1人で残っていましたが、ハプニングで旅立たなくてはいけなくなりますね。こんな旅立ちがあるのか、とびっくりしました。
なかや:そう、すずめに持っていかれてしまうんです。
富澤:実際に、すずめがたんぽぽの種を食べることがあるんです。絵本では、食べるのではなく「かざりにしよう!」ということでたねこちゃんをついばんでいくんですが、こういうキャラクターの心の流れは、全部なかやさんが作ってくれました。
私が提案したのは「無理矢理すずめに連れて行かれて、困るたねこちゃん」というような状況だけだったのですが、なかやさんに絵の構図や、言葉選びのひとつひとつで、たねこちゃんの心の動きがすっと入ってくる絵本に仕上げていただいたんです。できあがりの本とほぼ同じ状態のラフを拝見したときは、とても感動しました。私も編集部一同も「すばらしい!!!」と思わず歓喜の声をあげました。
───そうですね。たねこちゃんの気持ちにぐっと寄って、物語の世界に引き込まれます。そしてこの後たねこちゃんは、すずめに払われてコンクリートの上に落ちてしまいます。
なかや:たんぽぽの種には実際にトゲがあるそうなので、その拡大写真を富澤さんに送っていただきました。たんぽぽの綿毛が飛び立つところや、綿毛が風に乗る様子なども、とにかくたくさん資料を集めていただきましたね。
───実際に起きていることを、きちんと絵本でも描いているんですね。ということは、たねこちゃんが水滴に包まれて運ばれるということも、本当なんですね。
なかや:小さい虫が雨粒に包まれて運ばれるという写真があったので、インスパイアされました。良く見ると、雨粒に周囲の風景が映り込んでいるんですが、見え方が違うことに気づきますか?
───緑が上で、青が下ですね?
なかや:実は、水滴に映る風景は天地(上下)が逆になるんです。
───気づきませんでした! そんな細かい所まで事実を描いているんですね。たねこちゃんがどうなるのかハラハラして気になっていて、1回読んだだけでは気づかないところです。まさにこういう部分が「科学」に基づいた描写なんですね。
なかや:雨の雫の形、地面に落ちた雨粒がどんな風に散らばるのかも、写真を用意して頂いて描きました。実際に自然の中でよく起きていることですが、私たちは見ることができないし、わからないですよね。だから全てのシーン、全ての登場キャラクターに関して、実物を再現するというところに気をつけました。この後、水滴で運ばれたたねこちゃんが苔たちと出会いますが、富澤さんは資料に本物の苔を用意してくれたんですよ。
───道ばたにこんな苔が生えているなんて、知りませんでした。おはなしにはスギゴケ、ゼニゴケ、ホソウリゴケの子たちが登場しますが、種類にも意味があるんでしょうか?
富澤:苔の専門家に話を聞いて、日本全国どこにでも生えている3種類を選んでいます。おじいさんのギンゴケも、都会でよく見られる苔です。
なかや:資料の苔と一緒に、富澤さんがゼニゴケのキャラクターを描いたメモが入っていて、それがかわいかったので私なりにアレンジしました。頭に触角みたいなものが生えた苔の子たちがいますが、あれは「苔の花」と呼ばれる胞子体です。苔は胞子で増えるんですが、ゼニゴケは破れた傘のような形のものをつけ、裏側に胞子をつけます。でもそれができるのは、女の子だけなんです。
───苔に雌雄があるんですか?
なかや:そうなんです。私もこの絵本を描くときに初めて知りました。こんな風に、おはなしを楽しみながら科学に興味を持って欲しくて、きちんと描きました。私も知らないことが多かったので、すごく勉強になりましたね。
富澤:苔のキャラクターがここまで活躍するのは、『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』が初めてかもしれません。苔の専門家の方に話をしたら、とても喜んでいました。
───きっと見かけたことがある苔なんだと思いますが、女の子と男の子がいるとか、傘みたいなものがあるなんて知らなかったので、新鮮な驚きがあります。子どもと散歩するときにも、道の隅っこや日影を探したくなってしまいます。
なかや:そんな風にこの絵本が、日常の何気ないものに気づくきっかけになったらうれしいですね。
───苔たちの所に辿り着いたたねこちゃんを見て、ぎんごけのおじいさんが「すごいこじゃ!」と褒めてくれますね。でもたねこちゃんは、まだまだ自信がない様子です。パッと気持ちが切り替わらず、ゆっくりと気持ちが動いていく様子が印象的でした。
なかや:ここが、私が感じた作品の中核なんです。富澤さんに企画をいただいたときに「今は親も自信がなく、そういう大人の姿を見て、子どももチャレンジする心が乏しくなっている」という現状を知って、ものすごく共感したんです。最近「無理をしない」、「がんばらなくてもいい」ことが過剰に美徳化されているように思うのですが、それまでがんばって壁を乗り越えてきた大人の場合は、そういう姿勢でも良いと思うんです。でもそれを、子どもにそのまま当てはめてはいけないと思いますね。
───どうしてでしょうか?
なかや:子どもは発展途上じゃないですか。やってみたらできるかもしれないのに、挑戦することを諦めてしまったら、二度と挑戦する機会がないまま大人になってしまうかもしれない。すると、何か新しいことをやらなくてはいけないときに、「できそうにないから、もういいや」と諦める大人になってしまいそうで、ずっとモヤモヤしたものを心に抱えていたんです。
子どもって、たとえチャレンジして失敗したとしても、失敗するのが当たり前なので、繰り返すうちに耐性がついていくんですね。だから最初から諦めて欲しくないという想いをたねこちゃんに託して、「か弱そうに見える子でも勇気を持って何かをやろうとして、最終的に何かできたときにすごく自信になる」ということを伝えるのが、すごく大切なんじゃないかと思います。そういう絵本が最近少ないので、「私が描かなきゃ!」と思って、この仕事を引き受けました。
───「そのままのあなたで良い」というのは素敵なメッセージですが、「挑戦すること」を諦めないで欲しいということですね。
なかや:そうです。挑戦することがないまま大人になると、何か困難にぶつかったときに対処法が自分の中にないので、簡単に折れてしまうんです。「それで折れてしまってはもったいない」という若者もいっぱい見ていますし、それは私達大人の姿勢を真似している部分もあると思いますが、せめて子どもには、「少しでもがんばれば形になるんだ」という小っちゃな成功体験をいっぱい積んで欲しい。
だって、子どもが失敗するのは当たり前ですから! 親や周りの大人が「失敗は当たり前」という目で見守り、失敗を重ねて経験を積んでいって欲しい。でも失敗するには、まずはチャレンジすることがどうしても必要なので、そのチャレンジさせる土壌が今はちょっと足りないのかなと感じています。
───子どもが積極的に「やりたい!」という意思を示してくれたら、親もその気持ちに沿って応援することは簡単ですが、たねこちゃんのように「むりよ」という消極的な姿勢だと、親も「じゃあ、やらなくてもいいよ」とつい言ってしまいそうです。
なかや:そうですね。たねこちゃんは、お兄さんお姉さんがアドバイスしてくれても「どうせできないから」と思っていたし、ひとりぼっちになったときにてんとうむしが声をかけてくれても、言うことをききませんでした。
なかや:でも元の場所にずっと居続けることはできないので、結局、出されてしまいます。出されちゃった後は、もう自分でなんとかするしかないんですが、そういう境遇になって初めて自分で自分の力を試しても、うまくいかないんです。たねこちゃんも、もう1回風に乗ろうとして背伸びもしますが、やっぱりうまくいかなくて。でも、偶然辿り着いた所に、自分が何かを成し遂げるヒントだったり、背中を押してくれる仲間がいたりして。そこは、やっぱり人間の世界でも同じだなと思います。
───自信がある子ばかりではないですよね。それは親も同じなので、たねこちゃんにすごく共感できます。
なかや:失敗するのが怖いんですよね。例えば本1冊買うにしても、ものすごく吟味して、失敗のないものを買うというのを耳にします。それは、いろんな意味で余裕がないからなのかな……。例えば、子どもに渡す画用紙が1枚しかなかったら、子どもに失敗してもいいからどんどん描いてごらんとは言えないですよね。失敗しないように先回りして手を出してしまうのも、親が「失敗させたくない」と思う気持ちの表れだと思います。
───特にたねこちゃんのように、引っ込み思案な子だと心配です! 今の流れで感じたのですが、このおはなしは、親として考えさせられるシーンがありました。たねこちゃんがはっぱになって、しゃべらなくなってしまうシーンです。
なかや:たんぽぽは根付いてすぐ花を咲かせるのではなく、冬越しして次の春を待つんです。真冬に道を歩いていると、葉っぱが茶色くなって枯れたようなたんぽぽがあるんです。でも春になると青々として葉っぱがぐんぐん伸びて「あ、生きてたんだ」となる。地面にへばりついているのは、できるだけ日の光を浴びようとがんばるんですね。
富澤:この花が咲くまでの見守りシーンが、この作品の中で一番良いシーンになっていると思います。だからこそ、花を咲かせた時に大きな喜びと、達成感が味わえて。
───この状態のたねこちゃんは、実は春に花を咲かせるために、一生懸命力を蓄えてがんばっています。花が咲くか咲かないかは、たねこちゃん自身にしかがんばれないことなので、苔の子たちは心配しながらも、ちょっと風よけになるくらいで、後は見守るしかなくて。まさに親の心境ですね。
なかや:そうですね。私の子どもが今年成人するのですが、自分の子育てを振り返ると「子どものために」とやってきたことは、実は自分のためだったことに気がついて。子どもがやったことで自分が困るのが嫌で「やめて」とか「こうした方がいいよ」と言っていることが、本当に多かったなと。それがたぶん「余裕がない」ということなんでしょうね。余裕がなくなってくると、自分でも子どもと向き合う時間が限られてきて、自分のスケジュールに子どもを合わせてしまうこともあったので、もっといっぱい失敗させてあげてもよかったし、あんなに怒らなければ良かったなと今では思いますよ。
───なかやさん自身の子育ての経験も含めて、今の親子に届けたい想いが詰まっているんですね。
なかや:今の時代の子育ては、本当に大変だと思います。特に幼いお子さんを育てている親御さんたちには、本当に頭が下がります。まだまだ感染症が油断できない状況の中で大変だと思いますが、絵本などをうまく使って、なるべく楽しんで子どもと向き合ってもらえたらうれしいですね。ただ、1日休む間もない親御さんたちは、がんばらずに手を抜いて、でも小さい身体に大きなポテンシャルを秘めている子どもたちには、なるべくいろんなことをがんばらせてあげる機会を作って欲しいなと思います。
───「科学」がテーマと聞くと、無意識に「難しそう」と思ってしまいますが、『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』は、たねこちゃんに感情移入して読みながら自然にたんぽぽの育ち方が頭に入ってくるし、科学の本なのに自分の子育てを振り返る感覚があって、すごく面白かったです。
富澤:自然の中で生き物は、皆一生懸命生きています。それはがんばっていないと、生きていけないからなんです。
なかや:確かに、生きるか死ぬかの問題ですから必死ですよね。そんな風に、人は自然から学ぶことが多いと思うんです。しょせん人も生き物ですし。だから植物だって別世界ではなく、植物の生き様や育つ過程に人間と少し被る部分があって。そういう点で、すごく共感が持てますね。種=子どもはいつか巣立っていかなくてはならないし、放り出されたら自分でがんばらなければいけないというのは、自分の駆けだしの頃だったり、成人した子どもがポーンと社会に出てひとり暮らしを始めたという状況にも似ていますし。たんぽぽは、本当にすごいんです。わずかな土の隙間から、太い根っこを深く地中に伸ばして育つ。私も、たんぽぽのように打たれ強くなりたいですね。
───繰り返し読むうちに、まだまだ話に挙がらなかったポイントを見つけることができそうです。そして『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』から、新シリーズ「かがくのなかまたち」が始まるそうですね。次回作は決まっていますか?
なかや:私はまだ聞いていませんが、きっとおもしろい題材が来るんじゃないのかなと思っています。私も楽しみにしています。
───ありがとうございました。
取材・文:中村美奈子
撮影:所 靖子
今年、デビュー25周年を迎えたなかやさん。新シリーズが始まるたびに、絵本ナビを訪れてくださり、なんとインタビュー登場回数は12回と最多記録をお持ちです。なかやさんに、25年間子どもたちに絵本を届けてきた今の想いを聞いてみました。
なかや:私の本を読んでくれた子どもたちが育っていって、そして大人になった今、私の絵本を「自分の子どもに買いました」とか、最近仕事の依頼のときに私の本を「小さいときに読んでました」と聞くと、「ええ! そんな若い人たちが、こんなに立派になって!!」という思いです。本当にひと世代超えたんだなってうれしくもあり、時間の速さに驚きも感じます。これからもどうぞ末長くお付き合いくださいね。
『たんぽぽのちいさいたねこちゃん』の発売を記念して、「たんぽぽキャンペーン2022」が行われます。参加の方法は以下の2種類。セイヨウタンポポのたねこちゃんを見つけたら、ぜひ報告したり、写真を撮って奮って参加してください。
@「たんぽぽはっけんキャンペーン」
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A「たんぽぽかんきょうキャンペーン」
たんぽぽの種類を調べて専用アプリで生態地図を作ります。