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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『100にんのサンタクロース』発売10周年記念 谷口智則さん×磯崎園子(絵本ナビ編集長)対談

国内での絵本出版だけでなく、海外での活動やライブペインティング、カフェの運営、大阪府四條畷市のPR大使など幅広いジャンルで活躍を続ける谷口智則さん。現在、谷口智則さんのデビューからほぼすべての作品を紹介する「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」が全国を巡回中です。さらに、今年は人気作『100にんのサンタクロース』発売10周年の記念すべき年。今回、展覧会開催中の「美術館「えき」KYOTO」へお邪魔して、谷口智則さんにお話を伺いました。

※美術館「えき」KYOTOでの「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」は9月3日に終了しました。

  • 100にんのサンタクロース

    みどころ

    ここは100人のサンタクロースがすむ街。100人色々なサンタクロースがいるのです。サンタクロースたちは、1年間かけて特別な日「クリスマス」にむけて準備している……なんて知っていました? プレゼントを配るおうちの地図をつくったり、クリスマスツリーや野菜や果物を育てたり、素敵な星空をつくる練習をしたり。それはもう、100人みんなが大忙しなのです。なかでも1番大変なのは、プレゼントの準備!おもちゃを運んだり、包んでリボンをつけたり。

    そして、とうとうみんながとっても楽しみにしているクリスマス。それは、こんなに大変な仕事が待っているサンタクロースたちにとっても同じ。
    なぜかって?
    それはね。プレゼントを配り終わった後の、サンタクロースたちだけの楽しみがあるからです!

    子どもたちが大好きなサンタクロースの絵本。個性豊かで愛嬌たっぷりなサンタさんが100人も登場するなんて、みんな大喜びしちゃいますよね。サンタさんたちの住んでいる家や洋服も、びっくりするほど可愛らしいですよ!!

    作者は日本だけではなくフランスやイタリアなど海外でも活躍をされている谷口智則さん。愛らしいキャラクターやあたたかな色合い、そして絵本の中に入ってみたくなる雰囲気がとっても魅力的です。クリスマスのギフトにおすすめしたい1冊です。

この人にインタビューしました

谷口 智則

谷口 智則 (たにぐちとものり)

1978年大阪府生まれ。金沢美術工芸大学日本画専攻卒業。20歳の時にボローニャ国際絵本原画展を見て、独学で絵本を作りはじめる。絵本「サルくんとお月さま」で絵本作家としてデビューしたのち、フランスの出版社Le petit lezard社より絵本「CACHE CACHE」をはじめ、日本だけでなくフランスやイタリアなどで数々の絵本を出版。以降絵本の世界にとどまらず、テレビ、雑誌、企業広告、商品パッケージ、店舗デザインなどあらゆるメディアで活躍の場を広げる。今後の活躍が最も期待されつつある、日本人絵本作家の1人。読んだ人が絵本の世界に入り込め、登場人物の想いや言葉が空間に浮かんでくるような絵本作りを心がけ、たとえ言葉が通じなくても、子どもから大人まで世界中の人びとに想いと感動が伝わるような絵本作りを目指している。

ひとりひとりに役割があって、ひとりひとりが大事

磯崎:『100にんのサンタクロース』10周年、そして展覧会の開催おめでとうございます。学生の頃の作品から最新作まで展示されていて、谷口さんの世界を知るには本当にいい展覧会ですね。

谷口:ありがとうございます。自分の活動全部を振り返った感じですね。

磯崎:2013年に 『100にんのサンタクロース』が出版されたときのことを、私はとてもよく覚えていて、最初見たとき「サンタが100人もいる!」って、小さい子どものようにわくわくしました。そうして、ページをめくっておはなしを読んでいくと、100人それぞれに役割があって、クリスマスのプレゼントを配るために頑張っている。「これはすごい絵本が出たぞ」と驚きました。10年たって、谷口さんはたくさん絵本を出版されていますが、『100にんのサンタクロース』の人気は全く衰えないというか、ずっと変わらずに子どもたちに愛されていますよね。

谷口:とても嬉しいですね。ぼくの絵本は登場人物ひとりひとりに役割があって、ひとりひとりが大事なんだよということを伝えたいと思って作っているのですが、『100にんのサンタクロース』はそのメッセージが絵本の中に全部描き切れた作品だと感じています。

磯崎:100人いるサンタクロースそれぞれが個性的で、役割を持っているというのが子どもたちが目を輝かせるポイントですね。今回、『100にんのサンタクロース』の魅力を深堀していきたいと思っているのですが、まず「ここは100にんのサンタクロースがすむまち。」というページで100軒のサンタクロースの家が並んでいる。「え?どういうこと?どんなサンタクロースがいて、どんな風にくらしているの?」と疑問と期待が膨らみます。

谷口:ここの構成はかなりしっかり考えて作りました。家が並んで、次はサンタクロースが出てくるかな……と思ったら、シルエットで。さらに期待が膨らむようにしています。

磯崎:カラフルな町の外観から、サンタクロースのシルエットがモノトーンで並んでいるのはありそうでない構図ですよね。そして、次のページからサンタクロースが出てくるのですが、洋服もお仕事の内容もとにかくユニーク。でも誰もがクリスマスの大事な役割を担っているんですよね。

谷口:そうです。あと、クリスマス絵本というと、サンタクロースがプレゼントを配るところは絶対に外せない場面だと思うのですが、『100にんのサンタクロース』はこの配るシーンをあえて出していないんです。

磯崎:それってすごく斬新ですよね。かなり思い切った判断だったのではないですか?

谷口:プレゼントを届ける場面は子どもたちが想像すればいいところだと思ったんです。サンタクロースがプレゼントを配るとき、子どもたちは寝ているじゃないですか。ぼくが絵で表現するよりも、読んだ子、ひとりひとりの中にあるプレゼントを配るサンタクロースの姿を想像してほしいと思いました。

磯崎:なるほど。だからプレゼントを配る場面より、その前の準備や終わった後のサンタクロースのお楽しみのシーンが描かれている。それがクリスマス絵本の中でも斬新で、画期的なことだったのですね。春から秋までのサンタさんの日常が描かれているのも、より親近感が沸きますね。

谷口:クリスマスって時代によって変わっていくものだと思うんです。昔のサンタクロースって聖人で、どこか近づきがたい神聖な人というイメージがありましたよね。でも、今はより身近で毎年プレゼントをくれるおひげのおじいさんという存在なんじゃないかなと。だから、今の子どもたちがより共感したくなるサンタクロースを作りたいなと思いました。

磯崎:『100にんのサンタクロース』を作っていく過程で、特に印象に残っていることはありましたか?

谷口:今回の京都の「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」で、10年前に『100にんのサンタクロース』を作ったときの下描きがはじめて出てきたんです。それを見たら、おはなしのラストが今と違っていました。下描きでは、最後「はなびサンタ」が出てきて、「メリークリスマス!」と打ち上げ花火をパーンと上げて終わりでした。

磯崎:そうだったんですか!

谷口:でも、作っている間にもう少し静かに終わりたいな……と思い、今のラストに変わったんだと思います。

磯崎:それは10年たった今だから明かされるエピソードですね。

谷口:それと、この作品でぼくが一番伝えたかったことは、プレゼントを配る場面の「みんなで ちからをあわせて、たかいきのうえや ふかいうみのそこ まっくらやみ……、どんなところにだって プレゼントを とどけにいくよ。」という一文なんです。これは、ぼくが絵本作家としてやりたいことと一緒なんです。

磯崎:絵本作家としてやりたいことと一緒とは?

谷口:サンタさんって子どもたちにプレゼントを届けるだけではなく、プレゼントと一緒に希望とか夢を与える存在だと思うんです。ぼくは絵本作家もそれに近い存在だと思っていて。絵本って、最初に子どもたちが楽しめるもの、好きになるものじゃないですか。ぼくの作品が、世界中の子どもたちに絵本という形で届けられる、その絵本を通して、子どもたちが夢や希望を受け取ってくれたらと思っています。

フランスから日本へ逆輸入されてきた絵本『おおきいサンタとちいさいサンタ』

  • おおきいサンタとちいさいサンタ

    みどころ

    真っ赤な服に、白いひげ、
    肩からプレゼントの入った袋を下げた、サンタクロース……が2人。
    「あれ、この2人、どこかで見たような……」と思った方、よくぞお気づきで!
    この2人は『100にんのサンタクロース』に登場した、
    おおきいサンタとちいさいサンタなのです。
    そう! このおはなしは『100にんのサンタクロース』の前日譚。
    おおきいサンタとちいさいサンタの2人が、
    どうやって出会い、仲良くなったのかが描かれています。

    今でこそ、2人は100人のサンタクロースの住む町に住んでいますが、
    最初の頃、丘の上に立っていたのは、おおきいサンタとちいさいサンタの家が2軒のみ。
    しかも、2人の家の間には柵があったので、
    2人は今まで一度も話したことはありませんでした。
    しかし、ある年のクリスマス、
    それぞれおおきい町とちいさい町にプレゼントを配り終わった2人が家に戻ると、
    2人の家に、1通ずつ、手紙が届いていたのです。
    手紙によって、2人ははじめて話をすることになるのですが、
    その手紙に書かれていた内容とは……。

    おおきいサンタとちいさいサンタの姿を見ていると、
    1人でできないときは、友達と一緒だとできるようになること、
    1人よりも2人でいる方が、楽しい事に気づくことができます。
    『100にんのサンタクロース』と一緒に読むと、
    あの2人からこんなに仲間が増えたんだ……と面白さ、感慨深さも倍増です。

磯崎:『100にんのサンタクロース』が出版された後、2015年に『おおきいサンタとちいさいサンタ』が出版されました。『おおきいサンタとちいさいサンタ』は「『100にんのサンタクロース』のおはなしのまえの おはなし」と書かれていますが、実際は、2009年にフランスで「LES 2 PERES NOEL」というタイトルで出版されていたんですよね。

谷口:そうです。「LES 2PERES NOEL」があったから『100にんのサンタクロース』は生まれたのですが、日本では『100にんのサンタクロース』の方を先に出版しました。今回の京都の「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」で「LES 2 PERES NOEL」を考えていたときのノートのメモ書きも出てきました。最初に大きいサンタを描いて、その横に小さいサンタクロースを並べて描いていました。

磯崎:この丸く愛らしいフォルムのサンタクロースからおはなしが生まれたんですね。

谷口:はい。まずサンタのビジュアルがパーンと降りてきて、このふたりだったら、どんなおはなしがいいかな……という形でストーリーを考えていきました。

磯崎:日本語版を作るにあたって、変えたところはありますか?

谷口:実は、フランス語版の方が2ページ多いんです。日本語版を出す前に作品を読み直したところ、ここのページはなくてもよいかな……と思い、減らしました。

磯崎:『おおきいサンタとちいさいサンタ』はまったく交流のなかった隣に住むサンタクロースが、ある困りごとがおきたことをきっかけに協力し合うおはなし。この柵越しに見つめ合うシーンがとても好きなんです。お互いにおそるおそる近づいていく感じ。

谷口:ありがとうございます。

磯崎:自分ひとりでは叶えてあげられなかった願いも、相手と協力することで解決できる。ひとりひとりに役割があるというメッセージは『100にんのサンタクロース』と同じですね。

谷口:はい。この『おおきいサンタとちいさいサンタ』のふたりの家のまわりにどんどんいろんなサンタの家が増えていって、『100にんのサンタクロース』のあの町になっていくんです。

大阪府四條畷市で展開される「100にんのサンタクロース・プロジェクト」

磯崎:最初は大きいサンタと小さいサンタしかいなかった場所に、どんどんサンタクロースが増えてくる……谷口さんが行っている四條畷市の「100にんのサンタクロース・プロジェクト」に通じるところがあるように思います。

四條畷市のあちこちに、サンタクロースがいるのだそう

谷口:「100にんのサンタクロース・プロジェクト」のきっかけは、クリスマスシーズンにサンタのオブジェの制作依頼があったことです。クリスマスの展示物って、12月25日が終わると置き場所がなくてだいたい廃棄されるんですよ。せっかく作ったのにもったいないと、とりあえずアトリエに引き取りました。でも、我が家にも置き場所はない……。困っていたところに知り合いのお店が置いてくれて、まず8体、8店に置いてもらうことになりました。そういう形で毎年少しずつサンタクロース制作の依頼を受けては、クリスマスが終わったら近くのお店に引き取ってもらうということを続けていたら、2015年ごろに四條畷市から声がかかって、市を挙げてのプロジェクトになりました。今では79体のサンタクロースが市のあちこちに置かれています。

磯崎:まるで絵本からそのまま飛び出してきたみたい。一年中、サンタクロースに会えるというのは嬉しいですし、街を巡ってサンタクロースを探すというのは地域活性化にもつながっていきますね。

谷口:そうなんです。観光というと有名なスポットに行って終わりになってしまい、なかなかその街を見て回る機会って少ないと思うのです。実際、街の何を見たらいいのかもわからない場合もありますし。でも、四條畷市にはサンタクロースがいて、ひとりひとり、違ったカラーリングのサンタクロースです。そのサンタクロースを探すだけで街をしっかり見ることになりますし、置いてあるお店の方との交流も生まれる。新しい地域活性化の方法かなと思っています。

磯崎:そのお店の中に、谷口さんのお店gallery&café zoologiqueもあるんですよね。

谷口:はい。最初の8人サンタの内のひとりが、お店にいます。

磯崎:gallery&café zoologiqueは2012年にオープンされたそうですが、絵本作家さんでカフェも運営されているというのは珍しいと思います。

谷口:当時は絵本作家とカフェを兼業している方はきっといなかったですね。ただ、ぼくは絵本作家を目指していた20代の頃からずっとカフェと本屋で働いていて、接客業は身近でした。さらに、2007年フランスでのデビュー作『CACHE CACHE』を出版した後、しばらくフランスに滞在して、絵本屋さんを巡ったり、パリの絵本の見本市でサイン会をしたのですが、そのとき、驚いたのが、パリの絵本屋さんにはとても自然に絵本作家さんがいて、お店に来た子どもたちと交流して、サインを描いている。作家さんが子どもたちにとってとても身近な存在だったんです。

京都の「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」でもお客さんを目の前にライブペインティングを行いました

磯崎:大人だと作家さんが近くにいると緊張してしまいますが、子どもはそんなこと知らないから、きっと本に絵を描いてくれるんだ〜と友だち感覚で接していきそうですね。

谷口:顔では誰だかわからなくても、絵を見たら絶対に「この絵本のキャラクターだ!」ってわかりますよね。しかも直接話すことができるから、その子が好きな動物とかを描いてあげていて。ぼくはそれが子どもにとってのはじめての芸術体験のように思ったんです。あと、サインを描いてもらった絵本は、その子にとって、絵本作家さんと出会った体験と合わさって、きっと特別な一冊になるなと思って。場所の思い出と体験の思い出として一冊の絵本が手元に残る。そんな場所を作りたいと思ってgallery&café zoologiqueを続けています。

磯崎:お店に行けば谷口さんとお会いできるということですよね。

谷口:営業日は土曜から月曜の3日間で、休日は絵本のイベントなどがあってお店に出られないことも多いですが、時間が空いたときは店内でコーヒーを淹れたり、お客さんとお話ししています。

磯崎:今日も一緒に展覧会を拝見させていただいたときに、沢山の人が谷口さんに話しかけてこられる様子にびっくりしたんです。谷口さんご自身にそういう雰囲気が漂っているのか、熱心なファンの方が多くいらっしゃるのか。そういうお客さんとの会話の中で新しい絵本のストーリーが生まれることもありますか?

谷口:たくさんありますね。ぼくにとってお店にいる時間は絵本作りでも大切な創作の時間です。

キャラクターは同じ世界の中にいる

磯崎:読者の方との交流の中で新しい絵本のアイデアが生まれることもあるということですが、谷口さんの絵本にはとても魅力的で個性豊かなキャラクターがたくさん登場します。しかも、よく見ると新しい絵本の中に別の絵本のキャラクターが描かれていた……という発見も多いように思います。谷口さんの中で、キャラクターたちはどういう位置づけなのでしょうか?

谷口:ぼくの中では、すべてのキャラクターが同じ世界にいるんです。絵本を描くときに「今回はどの子を主人公にしておはなしを考えようかな……」とスポットライトを当てる主人公を選ぶような感じです。

磯崎:そうなんですね! では、サンタクロースの町も森の遊園地も、ブタのドーナツ屋さんもすべて同じ世界の中に存在しているんですね。

谷口:はい。それぞれ別の絵本の主人公ですが、全部がひとつのシリーズのようにぼく自身は考えています。大体1回、森の中に入りますからね、主人公は。

磯崎:森……たしかにどの絵本の中にも登場しているかもしれない。その世界の中の真ん中に大きな森があるような。森に入るというのは、谷口さんにとっては、やはり必要な展開なのですか?

谷口:やっぱり光を当てるためには暗闇がないとね。暗闇がないと明かりの良さはわからないなって、1回は森に行きますね。

磯崎:光を当てるための暗闇、なるほど。それは谷口さんが黒い紙に絵を描かれて物語を生み出している様子とも、リンクしているのでしょうか。絵本を作りはじめた頃から一貫している手法の秘密にも、触れることができた気がします。

これからの10年へ

磯崎:今日お話を伺って、谷口さんが絵本を通して伝えていきたいことは10年前に『100にんのサンタクロース』を出版されたときからずっと変わらず、サンタクロースのように絵本を通して、子どもたちに夢や希望を届けたいんだと感じました。

谷口:そうですね、絵本作家になろうと思った20代のときから、その思いで描いてきました。ただ、もちろん10年の間に変化はあります。例えば、20代のころ自分と同世代の人に向けてメッセージを込めていたので、その頃は、文字のない、大人寄りのテーマの作品を多く作っていました。それからしばらくして子どもが生まれると、子どもたちに楽しんでほしいという思いが芽生えました。自分が親になって子どもに読み聞かせをするとき、文字のない絵本よりもストーリーが書かれている方がいい、繰り返しの表現があった方が楽しいと作品が自然と変化していったのを感じました。

磯崎:ご自身の生活とリンクして、絵本が変わっていくというのはとても素敵ですね。

谷口:今は子どもが成長して、絵本から卒業しつつあるので、もう一度、原点に返った作品を目指しています。これから描く作品は、今まで以上にシンプルな言葉で描きたいなと思っています。

磯崎:それは読者の年齢を定めずに、より幅広い人達に向けて作品作りをしたいということですか?

谷口:子どもだけが楽しい絵本ではなく、大人の方が見ても楽しめるようなものを作りたいという部分は変えずに、ぼくは元々、いろいろな国の人に届けたいという思いで絵本を作っているので、世界中の人に届けられるような、シンプルな言葉と絵で伝える作品をさらに描いていきたいですね。今、ようやくコロナが落ち着いて、海外にも行けるようになってきたので、また海外に行って、その国の人と交流したいです。

磯崎:谷口さんの世界をまたにかけた活躍、これからますます楽しみです。個人的には、また100人のサンタクロースの町にスポットが当たった絵本を読むことができたら嬉しいです。

ちいさいサンタと同じ、身長64pのサンタクロースオブジェ

谷口:考えてはいるんですが、その度に、もうこれ以上描くことはないなと思ったのでこれ以上の続編はなさそうです。その代わりというわけではないですが、『おおきいサンタとちいさいサンタ』に登場する、ゾウのパオくんと、ネズミのチュータくんにスポットを当てた絵本が、2024年の春ごろ発売する予定でいます。

磯崎:そうなんですね! それはとても楽しみです。

谷口:その絵本は今までにない、また新しいタイプの絵本になっていると思います。楽しみにしていてください。

磯崎:今日は本当にいろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございました。谷口さんはきっと10年後も20年後も、変わらずカフェでお客さんと話しながら、絵本をたくさん生み出していらっしゃるんでしょうね。

谷口:これからも同じ感じで続けていきたいですね。実は毎回、新作を発表すると「これ以上面白いおはなしを作れるかな……」と心配になることもあるんですが、キャラクターたちのいる広い世界を見渡してみると「まだスポットが当たっていない子がいるな」と思っちゃうんです。そうすると、すぐに新しいおはなしを作りたくなってしまう。 そして、絵本作りと並行して、今回の京都の「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」のような全国を巡回する展覧会をこれからも続けていくので、ぜひ、たくさんのお客さんに展覧会に足を運んでいただいて、お話しして、新しい絵本制作につなげていけたらいいなと思います。

磯崎:また10年後といわず、新しい作品が出版されたらお話を伺いたいです。今日は本当にありがとうございました。

取材協力:美術館「えき」KYOTO

実は美術館「えき」KYOTOは、谷口さんが金沢の大学に通っていたころ、高速バスに乗って金沢に帰る前に必ず立ち寄っていた美術館。ここで観た海外の絵本作家さんの展覧会に刺激を受けて、帰りの高速バスの中で絵本を作ったという思い出の場所なのです。

インタビュアー:磯崎園子
文・構成:木村春子
撮影:所靖子

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