●脳の成長には、親が与える「太陽の光」が必要
金柿:加藤先生とお話する前に、僕と娘で『夢をかなえる 10歳からの脳番地トレーニング』の「脳タイプチェック」を実際にやってみました。結果をみると、僕は少しアンバラスだったのですが、娘はバランスが取れていて、僕よりもしっかりしていました(笑)。
金柿:なぜ差があるんだろうなと思って聞いてみると、娘は、本に書いてあるような、脳番地をきたえるトレーニングを、小さい頃から遊びとしてやってきていたようなんです。
右手4拍子、左手3拍子で違うリズムをとったり、ひとりで右手と左手でじゃんけんする遊びを小学校低学年でたくさんやっていたなど、思い出話がたくさん出てきました。これは、お互いを知るコミュニケーションとしても、すごくおもしろいなと思いました。
加藤:そうですね。脳を知ることは、コミュニケーションとしてもとても役立つと思います。人間は、相手のことを理解すると攻撃をしないんですよ。なぜいじめが起きるかというと、いじめる側がいじめられる側を自分より低く見ている、つまり自分よりも脳番地が弱いところを察知して、攻撃しているんです。
でも本当は、どの人の脳も強いところと弱いところがあって、ひっくるめてみると実は大差がない。それがお互いにわかると、学校内でのいじめも防止できるんじゃないのかなと思います。
金柿:優劣でなく、それぞれの個性は脳が決めていると気づくと、「きみのこういうところがいいよね」と個性を認め合うことができますね。
加藤:不思議なんですが、その子の能力に周りが近づくと、その子の脳は伸びていくんですよ。友達どうしもそうですし、例えば親が「この子には音楽の才能がある!」と思って接していると、子どもの音楽の才能が、脳内で伸びてくるんです。
金柿:親の接し方で、どうして子どもの才能が伸びるのでしょうか?
加藤:親は、子どもが得意だと思っていることは、繰り返し経験させるでしょう。子どもも褒められたら嬉しくなって、また繰り返す。それで脳番地の「得意なこと」が成長し、「もっと得意」になるんです。反対に苦手なことは、失敗するのが怖かったり「やっぱりだめ」と言われるのが嫌だったりして、その脳番地を使う経験が少なくなってしまい、成長していない状態になっているんです。
親が子どもの「得意」と「苦手」がわかっていると、「得意」なところを使って「苦手」なところを成長させることもできるんですよ。
金柿:そうなんですね。我が家の子育てを振り返ってみると、妻は、娘が今できないことを不得意だと決めつけないで、「今はできないけれども、必ずあなたはできるようになる」と信じて声かけをしていたんです。加藤先生のお話で、やはりそうだったのかと確信が持てました。
加藤:大事ですよ。脳の発達原理からも言えることです。赤ちゃんは聴力が弱いため、聴覚系脳番地がほとんど発達していません。でも、親やおじいちゃんおばあちゃん、親戚の人がみんな赤ちゃんの誕生を喜んで、その子に話しかけますよね。
私は、脳番地の成長をよく樹木の枝ぶりに例えて説明するんですが、子どもの脳は「1本の樹木」で、親ができるという期待を込めてかける言葉は「太陽の光」です。「太陽の光」を注げば、子どもの脳は「太陽の光」をキャッチし、「樹木の枝」を伸ばしていくんです。だから親は、「樹木」を育てる「太陽」にならなければいけないんですよ。
金柿:愛情にこたえようとして、子どもの脳番地は育つのですね。
加藤:私のように、脳の発達の凸凹が激しい人間が医者になり、脳科学者になれたのは、たぶん祖父母と両親の育て方だったかもしれません。私の両親は、学歴はほとんどありませんでした。だから、親が高学歴だから、子どもも高学歴に育つわけではないと思っています。
大切なのは、本来その人が持っている脳という「樹木」に、周りが「きっとできる」という言葉で「太陽の光」を浴びせ続けること。そうすると枝が伸びて、やがて花が咲くのです。
ところが実際は、周囲が子どもの脳の成長を狭めるような声かけをしていることが、けっこう多いのではないかと思うんです。
金柿:「あなたは音楽ができないから、やらなくてもいいよ」と言うと、その枝は育つ機会を失ってしまうんですね。
加藤:そうなんです。「あなたは歌がへたくそだね」と言うと、子どもは「へたくそだから、歌ってはいけない」と思って、歌う機会が減ります。頻度が減れば、当然歌のトレーニングができない。すると音を聴かなくなり、口も動かさなくなり、やがてコミュニケーションがへたくそになるという連鎖も起こりえます。
能力を「天から与えられたものだ」と誤解しているから、そのような結果になるだけで、脳にとって「できないこと」は一時的なもの。やればできるようになるんですよ。