『スノーマン』(日本では評論社から『ゆきだるま』のタイトルで出版)や『さむがりやのサンタ』(福音館書店)、『風が吹くとき』(あすなろ書房)など、現在まで読み継がれるたくさんの名作を生み出してきたイギリスの国民的絵本作家、レイモンド・ブリッグズさん。
彼が愛する両親の人生を描いた絵本『エセルとアーネスト ふたりの物語』(バベルプレス)が、この度、美しいアニメーション映画となりました。(2019年9月28日より岩波ホールほか全国順次公開)
映画の公開を記念して、映画のプロデューサー、カミーラ・ディーキンさんの協力で、原作者レイモンド・ブリッグズさんを訪ねました。
ブリッグズさんは現在85歳。絵本にも出てくるサウスダウンズの家に暮らしています。実の娘のように親しくお付き合いしているカミーラさんによると、ブリッグズさんは「とても謙虚な人柄で、恥ずかしがり屋」。
気楽にお話しいただけるように、カミーラさんから質問していただき、ブリッグズさんに原作絵本と映画についても語っていただきました。
『エセルとアーネスト ふたりの物語』(バベルプレス)の絵本の翻訳を手掛けた、きたがわしずえさんにもインタビューしています。貴重なインタビューをお楽しみください!
●自身の両親を描くこと
激動の20世紀、イギリス 懸命に生きた1組の夫婦の物語 「スノーマン」で知られるレイモンド・ブリッグズが自身の両親をモデルに描き上げた実話。 メイドのエセルと牛乳配達のアーネスト。 二人が出会った1928年から亡くなる1971年まで、約40年間の記録です。
カミーラ・ディーキン(以下、カミーラ): 両親について描いてみようと思ったのはいつ頃だったの?
レイモンド・ブリッグズ(以下、ブリッグズ):あまりよく覚えていないな。
カミーラ:1998年に出版されたこの作品は、描き上げるまで10年くらいかかったのよね。
ブリッグズ:ああ、1998年だった。たしかに描き終わるまで数年かかったな。両親が1971年に亡くなって、その翌年に妻のジーンも死んだんだ。あの当時はちょっとした混乱状態だった。だから、いつどのように描きはじめたのか、正確には思い出せないんだ。
カミーラ:なぜご両親の話を描こうと思ったの?
ブリッグズ:二人の出会いがとても興味深いものだったからね。母・エセルは、メイドとしてある屋敷の2階の寝室の掃除をしていて、父・アーネストが下を自転車で通りかかった。母が窓から黄色い雑巾を振っていたのを、父が見つけたんだ。それがすべてのはじまりなんだよ。
カミーラ:二人のなれそめを聞いていたのね。
カミーラ:当時住んでいた家のことが細かく描かれているけれど、お父さんのアーネストは、レンジを取り換えたりタイルを貼ってペンキを塗ったりと、家を快適にすることにとても熱心ね。
ブリッグズ:若い夫婦が、古い家に住みはじめたら、あっちこっちいじったり改装したりするものだけど、父の方が、母よりも熱心だったね。母は部屋を改装するのは歓迎していたけど、そのせいで何かといろいろ家事を中断されるのを嫌がっていたよ。だけど父はそんなことはお構いなしにあれこれ大きな音をたてながら、金物類を動かしたりしていたものだよ。
●生活の中の社会的な歴史
カミーラ:「エセルとアーネスト」はとても個人的な物語だけど、背景の社会的な出来事も二人の目を通した形で描かれているわね。
ブリッグズ:担当編集者が歴史的な記録にしようと言ったのがきっかけだったかな。僕たちは生きていく中で、たくさんの個人的な関係を築いていく。けれど、結局は世の中の大きな流れの中で生きていかざるを得ないからね。だからこの絵本では、普段の生活から見えてくる社会的な歴史も描こうと思ったんだ。
カミーラ:時代背景はどうやって調べたの?
ブリッグズ:歴史書を読んで年代ごとの出来事をメモしていった。それから戦争や配給のこともよく調べたよ。