●ほかの人の立場にたてる絵本
─── この「とびだすなりきりえほん」シリーズというのがまた面白いですよね。
開くとお面になっていて、真ん中に穴が開いています。そこから顔を出すと・・・。
※顔が大きくはみだしているのは、子どもサイズだからです。
これも「お面を使って遊べるものを作りたい」「男の子バージョン、女の子バージョンがほしい」というお話があったんです。それで「こんなものが、飛び出したら面白いんじゃないですか」とか、いろいろお話させてもらって。
これ、すごく面白いんですよね(笑)。小さい子がこうやって顔を出して。顔を出している方は、どうなっているか見えないんですけどね。鏡でうつしてみるとか、だれかにやって見せてもらうとか。やってもらったりすると、すごく盛り上がるんですよ。
─── 色々な人や動物になりきれるっていうのが、子どもたちにも喜ばれそう!
変身できるって、子どもにとってすごく楽しいですよね。僕は、よく着ぐるみの絵とかも描きますが、そういうのって絶対楽しい。例えば子どもが怪獣をかぶって、お父さん、お母さんに、「自分は怪獣だー」って言って。もう、そうすると子どもの方が強いですよね。「お前たちやっつけてやる、えい、えい」とか言って。そうやってなりきれるっていうことで、色々な人の立場に立てるようになれるというか。それが怪獣の立場であったり人間の立場であったり、ちょっとでも絵本を通してそういうことを感じてもらえればいいなと思うんです。
いつも、子どもたちに何を伝えたいのか、考えているんですが、その中の一つとして、相手の気持ちが分かる人になってほしいなっていうのは、すごく思うんです。例えば、今のいじめの問題にしても、もし自分がされて嫌なことは、やっぱり人にはしないとか、それが基本。そういう人間としての一番の大切なところが、僕の絵を通して伝えられたらなって思ってます。それで、「なりきる」ということで、その人の気持ちに立てるっていう、入り口になってくれるかもしれないということですね。
─── 動物の気持ちになってみる、というのも。
動物の気持ち。僕は、そういう気持ちになるとね、お肉食べれなくなっちゃいます(笑)。昔、水族館に行ってね、エイにさわったんですよ。そしたらすごく可愛くて、もうそれからエイヒレ食べるのやめよ、と思ったんで、もうお肉大好きなんで、ウシもブタも触らんとこ、と思ってます(笑)。
●肩書きは「HAPPY CREATOR」!
─── 冒頭でも少し触れましたが、たかいさんの名刺の肩書きには「HAPPY CREATOR(ハッピークリエイター)」の文字が!
つかみはこれでOKなんです(笑)。最初に、パッと出すと、「え、HAPPY CREATORって、なんですか?」となるんです。元々会社に入った時は、「イラストレーター」という肩書きを名乗っていたんです。でもそのうちに、今僕のやりたいのは単にイラストを描くことではなくって、それを通していろんな方を楽しい気持ちにさせられる、もっともっといろんな事をしていきたいなと思って。その後「ライフデザイナー」という肩書きを経て、現在の「HAPPY CREATOR」になりました。絵本やデザインだけでなく、更に、映画を作ったり、美術館をつくったり・・・いろんなことをしたいという気持ちがあるんです。
─── いろいろなジャンルに渡って活躍されてるのも、すごく納得ができますね。絵本でも、やっぱりたかいさんの作品というと、元気になれる色を使われているイメージがあるんです。そのあたりもこだわられているんですか?
好きな色、というのはありますね。実は、昨日たまたま資料を探していたら、古いノートが出てきたんです。そこに、「好きな色の組み合わせ」と書いてあって、色のチップが4枚貼ってあったんです。それがまさに、「おはなし・くろくま」シリーズの表紙の色だったんですよ。
▲かわいくて好奇心いっぱいの“くろくまくん”が活躍する「おはなし・くろくま」シリーズ(くもん出版)。
20年前のノートだったんです。すっかり忘れていたんですけど、「変わってへんなー」と思って。愕然となったけど、「あ、やっぱり芯は一緒なんやな」とも思って。変わらないといけないところと、変わってはいけないところが、ちゃんと自分の中に共存できてたんかなって、ちょっとだけ思えたんです。
特に、ミキハウスさんの本の場合は、ミキハウスさん自体が子供服のメーカーさんで、まさに赤がメインカラーだし、元気な色使いですよね。たまたまそれが、ぼくの好きな色と、ピタッと一致してたというところも大きいですよね。
自分の中では、そうやって派手な原色を使う自分もいて、一方で渋い色も使える自分もおったらええなって、思うんですけど、なかなか渋い自分は出てこないんです。もっと考えてやれば出せるはずやってすごく思うのに、結局気が付いたら、カラフルな色になってるんですよ。「おはなし・くろくま」シリーズは、とりあえずカラフルに見えてても、2色しか使っていないんです。敢えて雰囲気はいつもと変えてみたんです。
●作家たかいよしかずさんの原点はウルトラマンの怪獣!?
たかいよしかずさんご自身についても少しお伺いしてみました。─── 子ども達を楽しませるために、普段から、リサーチをしたり観察したり・・・ということはあるんですか?
あんまりないんですよね。子どもが何が楽しいと思ってるかというのを知るのは、絶対大切なことやなって思います。でも会社で仕事していたら、なかなか機会ないし、じゃあどうやってその話を聞くのか、子どもさんのいるお宅に行って話を聞くとか、電話して聞くとか・・・。たまに小学生ぐらいの子どもさん集めて、図書館とかでワークショップを頼まれるんですよ。その時に、子どもたちと一緒に紙工作とかやって、子どもがどうするのかなとかね、どこまで想像力が発揮できてんのかなとか、見ながら。自分も楽しいからやってるんですけど、やりながら、観察はしてますかね。あと、うちの奥さんが保育所にアルバイトに行っていたり、子どもの絵画教室をやっているので、よく話を聞いたりしてます。
─── そうすると、ご自身が子ども時代の目線にもどって作品をつくる・・・という部分が大きいのでしょうか?
大きいですね。僕は、子どもの頃、めっちゃとんでもない子どもだったんです。大人しくはなかったですね。虫とりがすごい好きで。うちの近所は、お墓にクヌギの木がいっぱい生えてたんですよ。で、学校終わるといつもお墓に行って。でも、そのクヌギの木が生えているところって、墓石が並んでいる奥なんです。で、その低い段のお墓をかこっている石にパッと飛び乗って、「すいません、すいません」って言いながら、木にパッて飛びついてワーって登って、木の穴に手つっこんで、クワガタムシ捕まえたりとかしてるような子どもで。
僕ね、小学校のたぶん2年くらいの時に、将来は昆虫博士か怪獣博士になろうと思っていたんです。僕の今やってる全ての作品の原点は、ウルトラマンの怪獣やなと思ってます。一度だけ、グループ展に展示するための作品がつくれなくなった時があったんです。色々悩んだり、試行錯誤したり。映画を観に行ったり、他の人の作品を見に行ったり。でも、なかなか進まなくて。その時、自分は何が原点にあったのか、よく考えたんです。そしたら「あ、ウルトラマンの怪獣や」と気が付いて。そこからは早かったんです。
そういう経験もあって、今やってる仕事は全て、子どもの時の体験がベースやなって、思います。だから、今までやってきたことは、何一つ無駄なことはなかったなって思えるんです。
─── もう子ども時代からのずっとが、今の仕事につながってるという感じでしょうか?
もう、ずっとずっと続いてますね。幼稚園のころから絵を描くのが好きで、でも、もう既に、同じクラスに自分よりも絵の描くのがうまい子がいる、っていうのを知ってたんですよ。もう、こいつには勝てない、自分が絶対一番とは思えなくて。既に挫折なんですよ。そしたら違う小学校に行ったんで「やったー」と思っていたら、小学校にもまた自分よりも絵がうまい子がおるんですよ、「あ、こいつにも勝たれへん」って。その子に、ノート持っていって「怪獣の絵描いて」って言って、よく描いてもらってたんですけどね。でも自分は、将来漫画家になりたいな、って思っていたりして。本当に、今やってる仕事は、天職と思いますね。今まで自分の中では自分が一番じゃなくて、自分も一番になりたいなって思って、仕事をやってます。絵のうまい人は山のようにいるけど、その中でこういう仕事につけて、ずっと続けていけられているのは、すごくありがたいことだと思っています。