『あやちゃんのうまれたひ』『あめふりあっくん』『ぼくのかわいくないいもうと』… ユーモアあふれるやさしいまなざしで子どもを描き、子育て世代にエールを送られてきた浜田桂子さん。たくさんのお母さん方に支持されていますが、そんな浜田さんの新作『へいわって どんなこと?』ができました。今こそ親子で考えたい、へいわって、しあわせって、どんなことだろう? そんな気持ちで浜田さんにお話をうかがいました。
- 『へいわって どんなこと?』
- 作・絵:浜田桂子
- 出版社童心社
へいわってどんなこと? きっとね、へいわってこんなこと。いろいろな事から平和を考えます。
日本の絵本作家が中国と韓国に呼びかけ、三か国12人の絵本作家の協力で実現した平和を訴える絵本シリーズ第一作。
●お母さんとしての体験と、絵本づくり
─── 東日本大震災以降の不安な日々のなかで、絵本の力や役割はどんなことだろうと。子どもたちの気持ちをやさしく包みこんだり、親子が共有する時間をつくることができたり、あらためて癒しとしての絵本の力を感じています。
一方では、子どもたちが乗り越えなくてはいけないこと、知らなくてはならないこと…たとえば突然やってくる親しい人との別れや、戦争や平和について絵本の中で考えることも、大きな役割のひとつではないかという思いもずっとあるんです。『へいわって どんなこと?』は何年越しかの企画とうかがっています。なぜこの絵本を作ろうと思われたのでしょうか。
(※取材は2011年3月25日に行われました)
平和についての関心はもともと高かったと思うんです。ずいぶん以前のことになりますが、子どもが生まれて子育てしている頃、私はまったくの主婦、専業主婦でした。2人子どもがいるんですが、間が1年8ヶ月しか離れていない。ほとんど年子のようで、ほんとに『ぼくのかわいくないいもうと』の兄妹のよう(笑)。絵本を作りたい思いはずっとあったけれど、絵を描く時間はなかったですし、もう子育てに没頭しよう、この経験が必ず子どもに向けて発信するときのベースになるだろう、と、選択肢がない中で開き直ったというか…(笑)。
そのときに一母親、一読者としてたくさんの絵本を楽しみました。ディック・ブルーナのあかちゃん絵本を子どもはほんとに好きでしたし、『あおくんときいろちゃん』も大好きで、こんな抽象絵本も子どもたちが受け止めるんだなあとか。そういう絵本との出会いの中で疑問に思ったのが、「平和絵本」と言われるものに悲しい話や怖い話が多いことでした。
─── そういえば、怖いな、と感じる本が多いかもしれませんね。
特に下の女の子は悲惨なお話だと泣き出しちゃって寝てくれなかったりして…。いろんな観点があると思います。悲惨なことを絵本で伝えて、読んだときはショックを受けても、そこからまた子どもが色々学びとっていくこともあるでしょう。年齢によっては戦争の怖さをちゃんと伝える本も必要だと思うんです。でももう少し小さい年齢の子向けに、平和ってすてきだよ、って、伝えられる絵本がどうしてないんだろう。母親としては、まず、平和っていいね、すてきだね、というのがほしかったのね。でも、ない。なければ、作ろう、と思ったんです。
そして『へいわって どんなこと?』はいつも自分に突きつけていた問いなんです。平和とは“戦争してない状態”だけではないという思いがずっとあって。戦争してないから平和だろうか、と考えると、そう言い切れない。じゃ何だろうと考えたとき、「いのち」だと。「いのち」が大切にされていなければ、平和って言えないんじゃないか。それは「産むこと」「生まれること」やいのちあるがままの子どもの姿を描こうとした私の絵本のベースとまったく同じだな、と思ったんです。
─── 『へいわって どんなこと?』は「日・中・韓 平和絵本」シリーズの第一弾だそうですね。浜田さんがこのプロジェクトに関わられたきっかけは…。
2004年に『世界中のこどもたちが 103』という絵本を、絵描きさんたち103人で作りました。当時始まっていたイラク戦争に対して私たち絵本作家は何もしなくていいのかという思いで、「こどもは平和でなければ生きられません。大人が起こす戦争の最大の犠牲者は兵士でなく、こどもです」というメッセージを込めました。原画展も全国巡回し成功に終わった一方で、2005年頃、私は日本に危機感を持っていました。当時の首相の靖国参拝問題や、歴史を書き換えられた教科書が検定を通るという状況が続いて、このままだと日本の子どもたちは戦争のときにやってきたことを何も知らないで大きくなってしまう。中国や朝鮮半島では、日本との侵略戦争や植民地時代の歴史も学んでいるわけで、知らないのは日本人の子どもたちだけみたいな状況になったら、これから先、近隣の東アジアの国の若者たちといったいどうやって本当の信頼を築いていくんだろう、と。
そんなとき“103”実行委員の一人だった田島征三さんが「東アジアの作家と平和絵本を作ろうよ」と言い出された。うーん、できると素敵だけど、できるのかなあ、というのが私の正直な気持ちだったんです。でも田島さんが、政治家だったらすごく難しいけど、僕たちは子どもに向けて絵本を作るアーティストなんだから。中国だって韓国だって、子どもに向けて本を作ってる人たちなんだから、ぜったい気持ちが通じるはず、って。確かに国としてはぎくしゃくしていても、子どもの幸せを思って表現する作家同士なら分かり合えるかもしれない。当然困難は予想されました。だけど、何とかなるんじゃないか、いや、できるんじゃないかな、と。そしてこんなふうにも話し合いました。たとえ本にならなくてもいい。中国や韓国の作家に呼びかけて、気持ちを通じ合わせていくことだけでも意味があるから。結果として、やっぱり1冊にはならなかったね、ということでも、いいよね、と。
そして田島さんと和歌山静子さん、私と田畑精一さんの4人で呼びかけのお手紙を作りました。「もし、中国、韓国、日本の絵本作家が連帯し、心を一つにして1冊の絵本を作ることが出来たら、意義は大変大きいのではないでしょうか。絵本は子どもの心に直接働きかけられる媒体ですから」と。どう受け止めてもらえるのかな、と不安はありました。でもあとから中国作家も韓国作家も、絵本の力で平和を発信したいと日本人が言ってきてくれたことに感動したと言ってくださった。それは、まずは大きな喜びでした。