最新刊『どうぶつぴったんことば』を出されたばかりのお二人、林木林(はやしきりん)さんと西村敏雄さんが絵本ナビオフィスに遊びに来てくださいました!!
西村敏雄さんと言えば、『バルバルさん』『どうぶつサーカスはじまるよ』『もりのおふろ』などあたたかくもユーモアセンスあふれる作品が大人気。
最近ではサトシンさんと組まれた絵本『うんこ!』も大きな話題となっていますね。その後も続々と新作が刊行予定。今や引っぱりだこの絵本作家さんです。
その西村さんが一緒に仕事がしたいと早くから注目されていたのが詩人・林木林さん。
木林さんは絵本の創作も手がけられており、その独自の言語感覚で絵本業界からも大きな期待をされている注目の作家さんなのです。
西村さんが初めて木林さんをご覧になったのはテレビの中。自作の詩を自身の朗読で競い合う「第4回詩のボクシング」全国大会(2004年)で木林さんが優勝!その大会の模様がNHKで放映されていたのだそう。
「当時僕は絵本を1〜2冊出したばかりの頃だったかな。木林さんが最初に登場した時点で、あ、この人優勝するなと。言葉のセンスがダントツだったんですよ。
こういう人が絵本の世界に来ると面白くなるだろうなと。いつか一緒にお仕事ができればともうその時に思ったんです。」
その後、実際にお二人が出会われたのは、絵本『たいようまつり』(文・風木一人 絵・西村敏雄 イースト・プレス刊)の原画展会場。
「(『たいようまつり』の文を書かれている)風木さんがお友達だと紹介してくださったんです。『林木林です』っていうから『林さんってあの林さんですか?』と。それで僕が絵本をつくるように勧めたら、すでに木林さんは絵本の仕事を始められてたんだよね。」
それはすごい偶然!ずっと詩を書かれていた木林さんが、絵本の世界へ興味を持たれることになったきっかけなどがあったのでしょうか?
「最初はただ"詩の本"をつくりたいと思っていたんですよね。絵本という形ならもしかしたら実現するかもしれない、と。それで詩をいくつかの出版社に持ち込んだんです。だからその頃は絵本のつくり方なんて何もわかっていなかったんです。でも、その詩を見て絵本になるかもと言ってくださった方がいて。それが『ゆうひのおうち』(作・林木林 絵・篠崎三朗 鈴木出版刊)です。もちろん、絵本の形になるまでは大分かかったのですが、そうやって実際に絵本をつくっているうちに、その面白さに魅せられていったんです。」
「そのうちに絵本というジャンルには色々な可能性があるんじゃないかなと思うようになって。絵本を読んでいると、生きているよろこびを感じる瞬間があったり、はっと気付かされるものがあったり。絵本にはもともとポエジーがあるんでしょうね、詩的なものや面白い言葉を表現するのに、とても魅力的なジャンルだと思います。私にとっては絵本も、絵と言葉で織りなす詩なんです。
でも、絵本の中で詩や言葉に触れることで、大人も子どもも関係なく"言葉って面白いんだ"って感じられる人が増えてくれればと思うんです。私自身が言葉で遊ぶことによって、日常の様々な場面で救われてきた、癒されてきた、そういう経験があるので。」
言葉で遊ぶことで癒される・・・新鮮な響きです。
さて、念願がかなってお二人でつくられた作品がこちら!
- どうぶつぴったんことば
- 作:林 木林
- 絵:西村敏雄
- 出版社:くもん出版
「かば」の「ばれりーな」は、「かばれりーな」。
「かばれりーな」が「ならんで」「でんぐりがえり」したら、
「かばれりーならんでんぐりがえり」。
「ぴったんことば」は、終わりと頭の文字が同じ言葉をどんどんつなげて楽しむ、新しいことば遊びです。
はじまりとなったのは、木林さんのこんな自作の詩。
リンゴリラッパイナップルビーダマウスイカマボコイヌイグルミンクルリュックサックジラッコ・・・。
国の名前をつなげてみると、
イタリアイルランドイツバルクセンブルクウェートルコロンビアンドラトビアルバニアルジェリアルメニア・・・。
あらまあ、まるで言葉の万国旗、ことばんこっき!・・・
(『どうぶつぴったんこ』林木林さんのあとがきより一部抜粋)
しりとりをつなげた楽しい呪文言葉を使って、今までにない絵本ができるかもしれないというアイデアが、詩の中で遊んでいるうちに生まれてきたそう。やはりきっかけは、詩だったのですね。
そのアイデアに共感した、くもん出版の担当編集の方に
「木林さんの作品で、言葉遊びですすめている原稿があるんですけど、絵を描いてもらえませんか?」
と依頼された西村さん。
「是非やらせてください!と。原稿を全く見ない間に言ったね(笑)。」
が、ことばの発想力が並大抵ではない木林さん。ぴったんことばを絵本にすることになり、アイデアをストックしていくうちに、最終的に登場する100倍くらいの言葉が出てきちゃっていたそうですよ!
西村さんが制作に加わったあとも、絵本として面白くなるようにと、要素をそぎおとし、構成をくりかえし吟味していく作業がつづきました。例えば、子ども達が遊んでいる時に"かばれりーならんでんぐりがえり"と思わず口に出てしまうような、言葉のあたりが強いものを選ばれていき、今の形に近づいていったそうです。
ところが木林さん。いったん絵本の構成が決まり、西村さんが絵の制作に入ったあとでもたくさんアイデアを思いつかれて、
「その度に僕が説得して削ってね(笑)。申し訳ないなとも思いつつ」
全く新しい言葉遊び"ぴったんことば"の絵本はそんな風にして出来上がったんですね。これは子どもと一緒に作ってみても楽しそう!
でも実際作ろうとすると、ちょっと高度かも?と思ってしまいますが・・・
「りんご、ごりら、らっぱをつなげたら「りんごりらっぱ」。ふつうのしりとりをつなげて、響きを味わってみるだけでも、『ぴったんことば』になるんですよ。"すかんくさい!""いただきますーぷ!"など、ふだんの生活の中でも、ぴったんことばが飛び出してくるくらい楽しんでもらえたら、嬉しいですね。」
ちなみに、作者のお二人はこの"ぴったんことば"をどんな風に読むのでしょう?
そう伺うと、木林さんは全くつかえる事なくすらすらすらー、さすがです。
「呪文と思って読むのがポイントなんです。」
なるほど!なんだか違う言葉に聞こえてくるから不思議。
一方西村さんは、制作中はいつも声に出しながら絵を描いていたそうで、
「となかいってらしゃーいってきまーす」
なんだかとてもしっくりきているのが可笑しい。
「いってきますきー」
そしてとっても楽しそう。適度にばかばかしさも出ています(笑)。
「いってきますきーなんて、考えてみるとばかばかしいんだけど、それを一生懸命声に出して、大人も子どももいっしょに笑ったりしている姿は、なんだか輝いていると思います。そういう瞬間を作り出してくれるのが、絵本のいいところですよね。」
「こねこねこねばねば。これは今でもときどきつっかえちゃう。」
そう言って開いたのは、こねこが納豆を嬉しそうにご飯にかけている場面。この首の傾け方!!まるで納豆に目がないわが息子を見ているようだ・・・。
「最初のラフは、顔は別に描いたんです。切り取った顔を体の上で回転させながら、ここが一番納豆が好きそう、という角度でのりをぺたっと貼って。」
そういうと、がさごそと無造作に"ぴったんことば"のラフをたくさん出してくださって
「目の位置、黒目の量、見開いていたり、つぶっていたり。そのちょっとした違いで性格が決まってくるんですよね。お調子ものだったり、意地悪だったり、情けなかったり、おだてられやすい子だったり。ほんの一瞬の表情に、全てかかっている。だからね、出版された後に毎回くよくよしちゃうんですよね。やっぱりもうちょっとこうすればよかったーって。」
毎回!?それは大変ですね・・・。
「家族にはまた言ってると思われていますけど。趣味なのかもしれませんね(笑)。」
木林さんにお気に入りの場面を聞いてみました。
「"らいおんせん"のページがすごくよかったです。あと、"となかいってらっしゃーい"は癒し系で、別の意味で好きです。
この人達だけを主役にもう一冊できちゃいそうですよね。」
と、ここで西村さんのかばんから更に登場したのは・・・大量の「ネタ帳!」。
「思いつくことは何でもここに書きます。パンチのあるフレーズや、あたりの強い言葉、誰かの発した名言とか・・・。」
絵本の仕事を始められた10年程前からずっと書いていて、今や12冊目になるのだそうです!
「作品を描く時は、いつもぱらぱらこのノートを見直して。思いついてすぐではなくて、時間が経って忘れた頃に見ても気になるものは、ちゃんと熟成されているから、具体的に形にしていっても、ぐっと来る感じになるんですよね。例えばノートの中にある一つのフレーズからアイデアが膨らんでいって、こんな場面があったら面白いな、そのシーンを描くためにはどんなシチュエーションにしたらいいのか・・・新しい絵本のアイデアはそんな風に考えていくことが多いです。更に登場するキャラクターもこの中から選んでいって。オーディションみたいな感じですね。」
ちなみに、今まで描かれた作品の中に登場するキャラクターは殆どこのネタ帳の中のどこかにいるのだそうですよ。
絵だけではなく、言葉へのこだわりも感じることができます。西村作品の魅力の秘密は全てここに詰まっているんですね。
最後に『どうぶつぴったんことば』にサインをお願いすると・・・
記念にぱちり! 本当に楽しい時間をありがとうございました。