ある日、主人公「ぼく」の耳に届いた、ふしぎなささやき声。 「ねえ、あたしのおとうと!」 それは、ぼくが生まれる前に亡くなった、お姉ちゃんの声だった。 「いっしょにいこうよ」 「夜になったら、むかえにくるからね!」 お姉ちゃんの声に誘われて、ぼくはその夜、 お姉ちゃんと一緒に、自転車で出かけて行った……。
ベルギーの作家シェフ・アールツが自身の子どもの頃の経験を元に描いた本作は、 亡くなった姉と弟の一晩の冒険を通して、 大切な人を亡くした悲しみに暮れる人々の心にそっと寄り添うように、 静かに物語を紡いでいきます。 そして、画家マリット・テルンクヴィストの手によって描かれた 幻想的な雰囲気が漂うファンタジー世界は、 この世ではない美しさと悲しさを醸しながら、 どこか明るく、優しく幼い姉弟を包み込んでいるように感じます。
オランダの銀の石筆賞、ベルギーのボッケンレーウ賞を受賞し、 国内外に高く評価された絵本がついに日本でも発売となりました。
「死」について考えるとき、そっとそばに置いておきたい一冊です。
(木村春子 絵本ナビライター)
おねえちゃんはぼくが生まれる前に亡くなった。だからぼくは、おねえちゃんにあったことがない。でもある日、ぼくはふしぎな声をきいた。「ねえ、あたしのおとうと! 今晩いっしょに、自転車ででかけようよ」そして夜になると、ほんとうにおねえちゃんが現れて…? 子どもが「死」を受け入れていく過程を、詩的な文章と叙情的な絵で描き出し、ヨーロッパで大きな話題を呼んでいる絵本。オランダ・銀の石筆賞、ベルギー・ボッケンレーウ賞受賞作。
自分が生まれる前に死んでしまったお姉さんに寄せる思いが、素晴らしい絵で詩情豊かに表現されていて、メランコリックでありながら、不思議な幻想の世界の旅をしているような気がしました。
それは少年自身が、死というものを実感していなくて、お姉さんへの憧れが夢の中で繰り広げられるからでしょう。
死に関わる場所を訪れながら、悲しみがないことが、少年の立場なのです。
ただ、朝になってお姉さんのいなくなったベッドに、いくらかの寂寥感が残りました。
少年はこのようにして、死を学んでいくのですね。
味わい深い絵本でした。 (ヒラP21さん 60代・パパ )
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