小学五年生の春菜が暮らすことになったのは、自立支援センター「あけぼの住宅」。ここでは、住む家のない母親と子どもが少しの間暮らすことができる。 あけぼの住宅の隣には市民図書館があり、春菜は、生まれて初めて図書館に入った。
友人や司書、本との出会いが、春菜を少しずつ変えていく……
【あらすじ】
母子家庭の親子を一時的に受け入れて入れる施設に引っ越してきた少女の物語。転校先の小学校では、あまりパッとしないどんくさい子でしかなかったが、図書館に行く事で彼女は大きく成長していく。図書館で本を読む楽しさを知る事で、彼女の世界が広がり、遅れていた勉強もどうにか追いつくことができ、学校の活動などにも参加できるようになっていく。
図書館を通じて、少女の成長を描く一冊。巻末に物語に登場した本の紹介もあり、読者も一緒に本の世界を楽しめる工夫がなされている。
【感想】
人の心の機微を、瑞々しい感性でとらえて、表現してある。どの人も、完璧な人はいなくて、どこか欠点があり、人間らしい。どの人物にも感情移入できる感じがあった。
特に、主人公の少女は、過去の辛い生活から劣等感を持つようになり、何事も消極的。そんな中でも希望や楽しみが現れ、一緒に過ごしてくれる友人を持っていく過程は、読んでいるこちらがわも励まされる。将来に希望がなかなか見えない昨今、このように、リアルに地味な話に励まされる。
子どもや、自分自身に対する過剰な期待、世間に溢れる情報の洪水。何を信じたらいいのかわからない現代社会の中、このお話のように、ささやかな希望をもってゆっくりと進んでいくのは大事なことなのではないだろうか。
この話を読んでいると、特別な人でなくてよかったと思える。ここに出てくる人たちは全員、普通の人で、普通に苦しみ、普通に生きている。派手なことは何もないが、じんわりと心にしみてくる良さがある。
このお話は、大人にも是非とも読んで頂きたい。生きるのに疲れた人や、劣等感を持っている人、何か特別なものになりたいのになれなかった人、…だれでも読んでほしい作品。 (渡”邉恵’里’さん 30代・その他の方 )
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