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翻訳家として、作家として、編集者として、本に真摯に向き合う人生。戦後日本の児童文学の普及に貢献した石井桃子とは。
私たちの人生とは所詮一度限り、「一期一会」。
けれど、別の人の人生をたどることはできる。
それは、本を読む愉しみのひとつでもある。
だから、子供の頃には「伝記」が読まれ、大人になってからも「私の履歴書」であったり「評伝」を読んだりする。
その人にはなれないけれど、本を読むことでその人が歩んだ道を追体験できる。
本は一度きりの人生を幾重にも茂らせてくれる。
この本はあかね書房という出版社が刊行している「伝記を読もう」というシリーズの一冊。
石井桃子さんはいうまでもなく『くまのプーさん』やブルーナの『ちいさなうさこちゃん』を日本に初めて紹介した翻訳者だし、『ノンちゃん雲に乗る』や『幼ものがたり』を書いた創作者だし、こども図書館のさきがけ「かつら文庫」の実践者。
もしかしたら、子供たちはそれが石井桃子とどれだけ関係のある作品かを知らずに本を手にしているかもしれない。
けれど、石井桃子さんはそのことをけっして悔しがることはないだろう。
石井桃子さんがよく記した言葉、「あなたをささえるのは、子ども時代のあなたです」には、石井桃子さんが主でなく、主はあくまでも子どもたちそのものという意味が込められている。
そのことこそに、石井桃子さんの魅力があると思う。
児童向きの伝記ではあるが、石井桃子さんの101歳という長い人生を実にうまくまとめている。
この作品で石井桃子さんをもっと知りたいと思った人は、尾崎真理子さんの『ひみつの王国 評伝石井桃子』をぜひ読むといいだろう。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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