漫画家・北沢楽天が引退後に描いた掛け軸をモチーフに、あらい太朗がぽんぽん版画と共に書き下した処女作。「永遠の愛のカタチ」を描いた大人の童話。寂しさにくれた未亡人・いのがカミナリになって天国にいる夫と会い、また生きる力を取り戻していく。
タイトルに出てくる「いのばあちゃん」というのは、日本で最初の職業漫画家になった北沢楽天の奥さん北沢いのさんのこと。
楽天は明治から昭和にかけて活躍した漫画家で、晩年は先祖代々の地であった埼玉大宮に住みます。当時の大宮市の名誉市民第一号にもなっています。
楽天は昭和30年(1955年)に79歳で亡くなりますが、いのさんはその後十年一人で過ごします。
この本の作者であるあらい太朗さんはさいたま市を拠点に活躍されている漫画家ですが、同時の北沢楽天といのさんの顕彰をライフワークにされてもいて、楽天を主人公にした映画「漫画誕生」(2019年)の制作にも関わっています。
そんなあらいさんだからこそ、楽天死後一人になったいのさんの寂しさとさらに募る夫楽天の思いを雷に託した「大人の童話」が書けたのだと思います。
そして、雷が登場するヒントになったのが、楽天が描いた掛け軸「雷と蛙」。この掛け軸の図版も作品解説もこの本の巻末に載っています。
物語はいのさんのところに雷のお父さんがやってきて、楽天の掛け軸を見て、雲の上の様子が違うことをいのさんに話します。興味を持ったいのさんは、だったらと雷と一緒に雲の上に。そこで、もっと上の天上にいる楽天と再会します。
物語も素敵ですが、あらいさんが考案されたという「ぽんぽん版画」による挿絵がかわいくて、いのばあちゃんってきっとこういう人だったのだろうって微笑ましくなります。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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