ママを亡くした男の子のもとに現れたゴリラ。「ママはどこにいったの?」「いつになったらかなしくなくなるの?」男の子の問いかけに、一つひとつ答えていきます。大切なひとを失う悲しみを、大きな腕で丸ごと抱きしめる絵本。また、もうひとつのストーリーとして、男の子とパパとの関係が描かれています。同じ悲しみに見舞われながら、悲しみが大きすぎるがゆえに、それぞれに抱えて分かち合えないふたり。でも、ゴリラとの対話によって、男の子が少しずつ変わり、ふたりが新しい日常を歩き出すようすにこころ打たれます。美しい水彩画が繊細な物語を彩ります。
愛する人を亡くした悲しみから、人はどのように立ち直っていくのだろう。
この本は絵本ですが、そんな深い問いを描いた一冊です。
だから、絵本だからといって子どもだけのものではなく、今も悲しみの中にいる大人の人にも読んでもらいたい作品です。
絵本はお葬式の場面から始まります。
亡くなったのは、まだ若いママ。パパと男の子が残されます。
ママが丹精込めた庭で、一人ぼっちでいる男の子に、一頭の大きなゴリラが近づいてきます。
男の子はゴリラに「ぼくのママ、しんだんだよ」と話しかけます。ゴリラは「そうだね、しってるよ」と返します。
こうして、男の子とゴリラの対話が始まります。
ゴリラは男の子の心のなかにいるのでしょう。
なので、ゴリラとの対話は男の子自身との向き合いです。
男の子はこうしてママを亡くした悲しみと戦っていたのでしょう。
ある時、男の子は部屋で泣いているパパを見つけます。
「ママにあいたい。」という男の子と抱き合うパパ。
そんな二人をゴリラは大きな体で包み込んであげるのです。
この時を境にして、男の子とパパはママの喪失の悲しみを共有しあうようになります。
男の子にとっての「悲しみのゴリラ」はやがていなくなります。
ママを亡くした悲しみは決して去らないでしょうが、パパと悲しみを共有することで男の子は前を向くことができました。
夕焼けの中を去っていくゴリラはもう「悲しみのゴリラ」ではないのかもしれません。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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