2020年2月に創刊の『Web新小説』(春陽堂書店)。その創刊号から1年間連載された外交評論家・岡本行夫による初の小説であり、遺作。著者撮影による海中写真とともに掲載されたので、フォト小説と名付けられた。
著者がカイロの日本大使館に勤務をしていたころ、海に潜った時に出会った巨大なナポレオンフィッシュ。ダイビング仲間たちは彼を「ジョージ」と名付けた。生まれ育った紅海から冒険の旅に出るジョージの成長と、愛する家族を失ったハンスが再び希望を見つけるまでを描く珠玉の物語である。
【コメント】 日本外交の一翼を担った外交評論家・岡本行夫。惜しくも2020年4月24日、新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった。 だが、我々がふり返らねばならない彼の足跡は外交上の成果だけではない。 本書は、生前、自ら命名したフォト小説という新しいジャンルの作品だが、この『ハンスとジョージ』にこそ注目の必要があるのだ。 本文を飾るのは30年以上通った紅海の美しい海中写真。選りすぐりの45点を掲載した。 そして、生命と愛にあふれた切ない物語が紡がれる。 ストーリーの横軸は愛すべき老ダイバー・ハンスと仲間になじめないナポレオンフィッシュ・ジョージとの交流。縦軸には細やかな家族愛が描かれる。 通奏低音として流れるのは人間による地球破壊を憂える視点だ。 小川未明の童話に影響を受けたという岡本。 最終章「ハンスの死」は涙があふれて止まらない。
―春陽堂書店 エディトリアル・プロデューサー 岡ア成美―
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