太一は、青森県八戸市の小学五年生。おちゃらけた明るいキャラをかぶって生活している。笑顔は学校専用だ。そんな小学生ライフを送っている中、都会から転校生がやってきた。名前は「大路優希」、すべてのパーツが精巧なガラス細工のように整っていて「王子」というあだ名をつけられた。
八戸には「えんぶり」という豊作を祈願する舞の郷土芸能がある。太一が所属する町内会でも、えんぶりの役が決まっていき、太一は“えびす舞”の役に指名された。えびす舞は、福の神のえびす様キャラとなり人々を笑わす滑稽な踊りだ。ほっぺたを赤くぬってナマズのようなひげも描く。お世辞にもかっこいい踊りとは言えない。キャラ的に受けざるを得なかった太一だったが、えびす舞は二人で踊るもの。そこに王子の白い手があがった。 「ぼくもえびす舞をやってみたくなりました。」 王子のキャラと、えびす舞のギャップに子どもたちは目を丸くするが……。
太一にはおちゃらけキャラにはそぐわない秘密がある。優希には王子キャラには似つかわしくない、どうしてもできないことがある。化けの皮がはがれないよう必死にキャラを演じる太一と、王子キャラを勝手に期待されてしまう優希。そんな二人は“えんぶり”の練習を通じて、本当の自分を見せざるを得なくなっていく。
「何もやらねで死んじまうよかずっとい(いい)」 東日本大震災で友人を失った、えんぶり指導の親方の言葉も響き、太一は本当の自分と向き合い、優希とも結びついていく。そんな二人のえびす舞はどうなっていくのか?
子どもも大人も、みんな何かしらのキャラをかぶって生きているのかもしれません。ですが、本当の自分よりも、キャラが主役の人生になっていないでしょうか? せっかく生きているのだから、キャラをかぶり、そいつに主役を明けわたすんじゃなくて、自分の人生の主役は自分なんだと胸を張って生きていきたい、そう読者の背中を押してくれます。 2023年度・青少年読書感想文全国コンクール課題図書にも選ばれていますが、この機会にぜひ読んで、自分の殻を破る爽快感を味わってみてください。
(徳永真紀 絵本編集者)
青森県八戸市の郷土芸能「えんぶり」のえびす舞の踊り手に抜擢された太一。クラスでは明るいおちゃらけキャラを演じているがその心は複雑。「王子」と呼ばれ女子から人気の高い、大路優希とふたりでえびす舞の練習をするなかでたがいの気持ちをぶつけ合う。キャラをあっさり捨てる優希、キャラにしがみつく太一……最後にふたりがつかんだものとは?
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