「金のひしゃく」と聞くと、トルストイが書いた童話で、水を欲しがる母のために、水を汲みに行き、やっとひしゃくに水を汲んだ帰路で、頼まれる度に、自分の分は我慢して、犬や、見知らぬおじいさんにまで、残りわずかな水を分け与えると水はなくならず、コンコンとまた湧いて来て、金のひしゃくになり、最後には空へ・・・。というお話が有名です。
一方、このお話は、戦争孤児による実話を元にした悲劇を描いており、そに真実の壮絶さ、刹那さに胸をえぐられる思いがしました。我が子に読みながらも、耐えられずに涙があふれ、とても先に読みすすめることが出来なくなってしまいました。
戦争の絵本は、今までにも随分読みましたが、この話のように、満州に取り残された戦争孤児の悲劇を語ったものは、初めてであり、自分が今まで、中国残留孤児の本当の悲惨さを余り理解していなかったということを思い知らされました。
このお話には四人の孤児が登場します。こうちゃん、よっちゃん、よしぼう、しんちゃんという小学生で、みんな家族を亡くし、帰りたくても日本に帰ることも出来ず、食べるものはほとんどなく、氷点下2、30度の冬を乗り越えることなく皆死んでいきました。
同じ難民収容所の大人たちは、自分や自分の家族のことだけで手一杯。栄養失調で、いつも下痢をし、体力がないため垂れ流し、お腹をすかせて、臭くて汚い彼らに優しくしてくれたのは、二週間に一度、炊き出しに来てくれた優しい炊事場のおじさんただ一人でした。
彼らは、今までの経験から、自分達が、後どの位で死ぬのか幼いながら理解しており、それが一層読んでいて切なくなりました。
そんな彼らは、お金もないのに、親切にしてくれたおじさんに、なんとか御礼をしたいと話し合います。そして、考えに考えたプレゼントとは・・・。
最後におじさんが、お正月用にと、張り切って炊き出しへ行くと、いるはずの彼らは、一人としてもうこの世にはいませんでした。
しかし、最後まで生き残っていたよっちゃんは、仲間との約束を果たすため、おじさんへのプレゼンとを伝えるために、目も霞んで後数時間の命の灯火の中、必死になって手紙を残します。
その手紙に込められた四人の感謝の思いの深さ。姿がボロボロになっても、最後までキラキラとした彼らの心の美しさ、純粋さは、本当に堪りません。手紙は、何度読んでも、もう涙が止まりません。
お金も何も持っていない彼らが、必死になって考えたプレゼントに、私も感動し、ただただ涙が溢れて止まれませんでした。
この少年達は、おそらくトルストイの童話を知っていて、そこからヒントを得たのだと思いました。
食べることに、事欠いたこの時代、おじさんは、自分も三人の子供を抱えながらも、二週間に一度、自分よりも、もっと苦しんでいる難民収容所へ炊き出しへ来てくれたのです。そんなおじさんが、食べ物に困らぬよう、家族揃って日本に帰れるように願い続けたのです。
おじさんが無事に日本へ帰れたのか本の中ではわかりません。しかし、私は確信しました。彼らに守られて、きっと日本に帰国できたことを。
この絵本は、もっともっとみんなに読まれるべき絵本です。
「火垂の墓」と同様、みんなが知っているお話であるべきです。
作者の増田昭一さんは、この少年のお兄さん格でした。四人は、代表であり、彼らが全てではありません。もっとたくさんの子供達が、同様にして死んでいったのです。
だから、全ての日本人に、もう二度とこんな思いをする子供達がいなくなるよう、もう二度と戦争など起きぬよう、世界から戦争が無くなるよう願って止みません。
この絵本が世界平和の一助になりますように。 (はなしんさん 40代・ママ 女の子10歳、男の子8歳)
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