「ひとりかもしれない」 そんな風に感じたことはありますか。感じたことがあったとすれば、それはいつ、どんな時ですか。
小学四年生の貝は、一週間前に、名字が町沢から木下に変わりました。ママが再婚したのです。再婚相手は幸介さんといって、料理が上手で鉄工所で働く優しい人です。でも貝は、パパのことを思い出しては複雑な気持ちで過ごしています。 学校では、保育園から知っていて、小学校では四年生になってはじめて同じクラスになった高広くんのことが気になっています。高広くんは保育園の時とちょっと感じが変わっていて、貝はそんな高広くんとまた仲良くなりたいと思うのでした。そんな中、心無いクラスメイトにからかわれる高広くんを堂々とかばう仲良しの世里ちゃんの行動が気になる貝。もしかしたら世里ちゃんって……と考えたりして、世里ちゃんと高広くんのやりとりにもやもやしてしまいます。そんな気持ちが積もり積もったある日、貝は世里ちゃんを裏切るような行動をしてしまって……。
「わたしのなかに、だれにもいえないことばかりがたまっていく。わたしはわるい子どもになったのだろうか。」 「わたし、迷子になりたいとおもった。」 「だれも知らない場所に行きたかった。」
気になる男の子と仲良しの友達のやりとりにどうにも嫌な気持ちになってしまったり、パパを恋しく思いながらも少しずつ目の前の新しい家族を受け入れていく少女の心のひだを、岩瀬成子さんが丁寧に描き出す一冊。
「ひとりかもしれない」そんな気持ちがふとやってきた時、この本の主人公と出会うことができたなら。現実の世界ではひとりのように感じたとしても、決してひとりじゃない。同じような孤独や心許ない気持ちがこの本の中に存在していて、ページを開けばお友達のように寄り添ってくれるのです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
風がふいて、わたしの心をゆらした。 どうしてあんな気もちになったんだろう。
ことばはすうっと上にあがり、天井にくっついた。 わたしがパパのことをおもいだしているのを幸介さんもママも知らない。 わたしのなかに、だれにもいえないことばかりがたまっていく。わたしはわるい子どもになったのだろうか。わたしはぎゅっと目をつむった。 ??本文より
離婚して不在になった父を思い、新しくやってきた新しい父を思い、小学4年生ならではの人間関係や社会観の中にいる、とてもナイーブな貝ちゃんの心理的物語です。
大人として、この年代の少女心理を想像するのですが、このまま受け止められる子どもって、どんな子だろうと考えてしまうほどに繊細で断片的なお話です。
でも、大人の事情と子どもの都合が程よく散らばっていて、深刻にはならず読み終えました。
貝ちゃん、きっと本当の父親を忘れることはありませんね。
これから幸介さんの父親修行が始まるのです。 (ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
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