二人には何年も何年も幸せなときが続き、
楽しい思い出もたくさんありました。
でも、いまついに一人が旅立ち、
もう一人が残されるときが来たのです。
言葉と絵が、後に残る者の悲しみと寂しさを余すところなく描いて、
それでもなお、愛は死によっても失われることはなく、
この世での寂しさはいっときのものと伝えています。
ゴフスタインはずっと真実の愛とは何かを絵本で表現したいと考えていました。初めてジョン・ハートフォードの歌う"Your Lone Journey" を聞いたとき、自分の考えてきた愛とか結婚とは、これだと思ったといいます。そして、ローザ・リーとドク・ワトソンの歌う元歌を何回も何回も聞き、数年たって、やっとこの絵を描けたのです。ゴフスタインにとって25 冊目となる本書は、他人の文章に絵を付けた初めての本です。
日本では、『ピアノ調律師』から7 年ぶりに翻訳出版されるゴフスタインの絵本。翻訳は、長年ゴフスタインの翻訳を手がけてこられた谷川俊太郎氏です。現代企画室の新シリーズ「末盛千枝子ブックス」の第1 作です。
[末盛千枝子ブックスについて]
すえもりブックスを主宰し、国際児童図書評議会(IBBY)の国際理事としても活躍した名編集者・末盛千枝子さんによる『人生に大切なことはすべて絵本から教わった』を、現代企画室は2010 年に出版しました。この度、現代企画室の新シリーズとして「末盛千枝子ブックス」をスタートさせることとなりました。末盛さんが新しく企画・編集する絵本や著作の他、末盛さんがかつて手がけたゴフスタインをはじめとする名作も復刊させていきたいと思っております。
「あるべき形におさまる」ことが私の理想です。だから、「末盛千枝子ブックス」が現代企画室のシリーズとして出ることが、私はとても嬉しいのです。
これこそ、「あるべき形におさまる」です。―――M.B. ゴフスタイン 【著者紹介】M. B. ゴフスタイン(ゴフスタイン,M.B.)
1940 年、アメリカ、ミネソタ州セントポール生まれ、ニューヨーク在住。大学で美術と小説、詩作を学ぶ。卒業後ニューヨークに移り画家として活動。その後、絵本の制作を始め、子どもたちや若い人に向けて、友情、自然、家族、仕事などをテーマに魅力的な作品を数多く発表。主な作品に、『ブルッキーのひつじ』、『作家』、『画家』、『生きとし生けるもの』、『わたしの船長さん』、『ゴールディのお人形』、『ピアノ調律師』、『おばあちゃんのはこぶね』、『ふたりの雪だるま』などがある。
【著者紹介】谷川 俊太郎(タニカワ シュンタロウ)
1931年、東京生まれ。1952年、第一詩集『二十億光年の孤独』出版。以後詩、エッセー、脚本、翻訳などの分野で文筆を業として今日にいたる。日本で紹介されているゴフスタインの絵本の翻訳を数多く手がける。詩集に『ことばあそびうた』、『みみをすます』、『日々の地図』、『はだか』、『世間知ラズ』など、エッセー集に『散文』、『ひとり暮らし』、絵本に『わたし』『ともだち』などがある。最新刊は詩集『シャガールと木の葉』、『すき』、『詩の本』、『トロムソコラージュ』など。
この絵本のことは、末盛千枝子さんの『小さな幸せをひとつひとつ数える』という絵本を巡るエッセイで知りました。
末盛さんのこの本には一冊ごとのエッセイにタイトルがついていて、ゴフスタインがローザ・リー&ドク・ワトソンの歌に絵を描いたこの絵本にはこんなタイトルがついていました。
「別れの悲しみの向こうに」。
そして、エッセイではこの本の出版化を勧めてくれた夫のことやまるでこの絵本の登場人物のようであった両親のことが綴られています。
この絵本はゴフスタインが他人の文章に絵を付けた初めての作品だということです。
登場人物は一人のおばあさん。
おばあさんには「何年も何年も幸せ」に暮らしたパートナーがいました。
けれど、彼は亡くなって、彼女は一人っきりになってしまいます。
絵本の中に何度も出てくる「ああ あなた!」という言葉が、彼女の悲痛をよく表しています。
彼女は一人、部屋にいます。
「私の心はずたずた」と嘆きます。
けれど、こうも思うのです。
「大好きな思い出はなくならない」、そして「私がそっちへ行ったら また手をつないで歩こうね」と。
愛した人との悲しい別れは誰にも訪れます。
逝ってしまった者と残された者と、どちらが悲しいのではなく、一人っきりでの旅が悲しいのです。
できるとしたら、いつまでも想い続けること。
肉体はこちらになくても、思いだけは二人で一緒に歩くこと。
末盛千枝子さんは「いつかはわからないけれど、きっと訪れる愛する人との特別な別れの日のための一冊」と綴っています。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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