江戸時代に活躍した彫刻家、左甚五郎の物語。徳川の三代目、家光より、祖父家康公をまつる日光東照宮に飾る猫の彫刻を彫るように命令された甚五郎と、六兵衛。よく出来たほうを採用するということだが…
講談は話を面白くするためにか、誇大表現や奇想天外な話も入り混じり、事実とは異なる娯楽作品だと思う。
この話も、東照宮の眠り猫は実際に存在するが、彫刻師の左甚五郎は伝説的な人物。作り話や「甚五郎」ブランドを利用したと思われる作品や人物、存在したといわれる時代も長くて、同一人物とは信じがたいような記録や資料が残っている、という。
私は栃木県出身なので、小学校の修学旅行は日光だった。東照宮の眠り猫や猿も見た。絵葉書も買った(と思う)。地元では「左甚五郎煎餅」をよくお土産で頂いて、何も考えずにバリバリ食べていた。平日の夕方に大岡越前などの時代劇の再放送が連日流れており、ラジオから浪曲を聴きながら針仕事などをしていた祖父母との思い出が懐かしい。
意外と地元の人は、土地に由来する有名人に関して、あえて調べたりしない。なんとなく「甚五郎煎餅」を毎回食べて(食べ飽きた)いるので、知っているつもりになっている。
それが改めて今回、講談えほんシリーズで興味を持って調べてみた。講談は人物も極端にわかりやすくキャラクター化していると思うが、職人としての腕の確かさや、人と違った視点をもった個性などがうかがえて面白かった。
後の世に伝説として残るくらいだから、きっと人柄も素晴らしいものがあったのだろう。ただの名人上手ではなく、いろんな人に対する気遣いも感じられて、温かい気持ちになった。